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「は?お前今日ベンチ??」
「風邪でもひいたアルか?帰国子女のくせに。」
翌日、昨日のアレが原因でベンチ入りになっていた俺を見るなり福井先輩と劉が珍しいモノを見るかのように声をかけてきた。
(…帰国子女関係ないだろう…)
そう言いたいが腰がズキンと痛むせいで立ち上がることも厳しく、とりあえず目で訴えてみたものの劉も福井先輩も「帰国子女秋田の冬に弱ぇー(笑)」だの「氷室はひ弱アル」だの好き勝手な事ばかり言って絡んでくる。
言っとくけど風邪じゃないです!!……と発言するのももう何だかどうでもよくなってきたかも…。
黙ったままの俺に代わって会話に加わったのは敦だった。
「ちょっとそこの凸凹コンビ、室ちんにちょっかい出すのやめろしー」
「あ?!ボコ…って、俺が小せーんじゃなくて劉がデカイだけだろ!!セットで呼ぶな!」
「福井がドチビなだけで私をデコ呼ばわりすんなアル!」
「だからチビじゃねーわ!」
「だから"ド"チビて言ってるアルよ!」
「…うっせーし。」
二人同時に敦に突っ込んだかと思えば(見慣れた光景ではあるけど)その後は福井先輩と劉のどうでもいい言い争いが始まった。
敦の言うとおり、うるさい。
思わず溜め息が漏れそうになる。
練習中にこんなくだらない言い合いをしていたら…………………、ああほら、監督竹刀取りに行ったじゃないか…
そんな監督の様子に気付いた先輩達が慌ててコートに入る中、敦はまだ俺の傍に立っていて、じっと俺を見下ろしていた。
「敦、ほらお前も早く戻らないと。」
「うん。…。」
「…俺は大丈夫だよ。」
「ほんとにー?」
「ほんとだって、本当に大丈夫だから。」
だからそんな心配そうな目でみなくてもいいんだよ、って心の中で付け加えて、笑ってそう返すと敦はようやく納得したのかゆっくりコートへ戻っていった。
その背中を見て、なんだか変な感じになってしまう。
…なんだか…擽ったいというか…
(今更恥ずかしいとか言うつもりはないけれど)
誰かに大切に想われるということが、…こんなにも擽ったいことだって知らなかったな…
それは思わず緩みそうになる口元を己の手の平で隠さなきゃならないくらいで、少し厄介だな…なんて思ってしまった。
「ミニゲームはじめっ!!」
監督の声が響く。
試合開始の合図とともに、ボールが高く舞った。
敦のいつものミスでボールは福井先輩の手に渡り、試合が進む。
「敦てめ、今日は絶対負かす!ニンジン死ぬほど食わしてやる。」
「そうアル!あとでニンジン頬張りながら謝るアルよ!」
「…はー?二人まとめてトールハンマーしてやるしー。てかオレ勝ったらウンコ味のウンコ食わせるしー。」
「おまっそれもうただのウンコじゃねーか!!」
「誰が食うかアル!!!」
「……わしにもボール廻してくれよ、紫原…」
敦と先輩達が何を言い争っているのかは聞こえなかったけれど、心の中で「敦がんばれ」と呟いてしまったことは先輩達には内緒にしておこうと思った。
〜END〜
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