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劉なりに気遣かってくれたんだとは思うけど、あまりに不意打ちだったから。
その手をバシッと払いのけてしまった。



「さ、触んな…!」
「…。(アイヤー…顔めっちゃ赤いアル…マジ可愛い。キスしたい。押し倒したい。)」



劉がポカンとした面で見てくる。
ヤバい、どうしよう。
き…傷付けた…?
いくらなんでも『触るな』はナイだろオレ…。

謝るべき…だよな。
こういうの、曖昧にしてスルーすんのは良くねーよな…

チラリと様子を窺うように劉に視線を向けるとオレの予想とは真逆に、劉は嬉しそうにふわりと微笑んでいた。

……ん?何で?
傷付いてない?怒ってもない?
(いや…でもとりあえず謝っとこう…)



「あ、劉、その…」
「福井やっとコッチ見たアルな。」
「…へっ?」
「全然酷い顔じゃないアル。可愛い。もっと見たい。見せろ。」
「ちょっ…、劉…っ、」
「ふふ、目の下ちょっと赤いアル。昨日いっぱい泣かせたからかな。」
「おい…、や、やめろって…っ」




ニコニコ笑いながら劉の大きな手がオレに触れてくる。
髪に、目尻に、頬に。

触れる度にまた「可愛い」を連呼されて恥ずかしさのあまりオレの視線は泳ぐばかりだ。

過剰なボディタッチとストレート過ぎる甘い言葉。
(……ううっ…外国人…タチ悪ィ…)


逃れられない劉の両手の中でオレの顔面はどんどん赤くなっていく。
いつからかわれても可笑しくないくらい、赤くなってしまってる。

だって……こんな至近距離でガン見されながら…、まるでキスでもするみたいに…両手を頬に添えられたままとかっ…

そんなんもう、劉の目から逃げるように視線を背けるくらいしか出来ない。

つーか…。
な、なんか、この雰囲気、めちゃくちゃムズムズする…。


妙な雰囲気の中、互いに沈黙すること数秒、まるで今思い出したように「あ。」と声をあげたのは劉だった。
急に立ち上がったと思いきや、スッと手を差し出してきて。



「福井、立てるアルか?」



そんな一言にオレは思わず固まった。
…なぜなら…今立ち上がるのは色々ヤバい気がする。

その、何て言うか…力を入れても力を抜いても、どっちにしても…ケツから漏れてきそうだからだ…。



「福井?」
「…あ、いや…、ちょっと…今は、その、腰痛ぇから…」
口篭りながらごまかすようにまた視線を逸らす。
とりあえず…「落ち着いて一先ずパンツを穿こう」という冷静な判断に至ったオレはサイドチェストに手を伸ばした。

こういうときって…どうするのが1番良いんだろうか。
劉が帰るまで我慢して、それから風呂に入るべきか。
それともトイレで処理するべきか。
(…そもそも処理って……どーするもんなんだ?)


そんな事を考えながら替えのパンツを引っ張り出そうとしていたオレの背後に、突然の黒い影。

不思議に思って顔だけ振り返ると、至近距離でオレを見下ろす劉がいた。
「えっ?」というヒマもない。
気付いた時には、身体が宙に浮いていた。
……ていうか…担がれてた。



「仕方ねーから私が運んでやるアル。…っていうか福井軽すぎ。」
「はっ?!!えっ…ちょっ、えっ?!!」
「ちゃんと食ってるか?」



ちょっ……!!!!
待て待て待てっ…!!!

オレ普通にまだ鍛えてる方だし、お前からしたら小せぇのかもしんねーけど、身長も体重も十分平均レベルだってのに

か、軽々持ち上げやがって…ありえねー…っ
(…つーか…これ、この体勢っ…)


女子の憧れシチュエーション、いわゆる『お姫様抱っこ』ってやつ。
しかもオレ、パンツ穿く直前だったから…つまり…全裸で抱き上げられたってことで…

焦りまくる思考は、ただグルグルと回るだけでまともな考えなんかもはや出来るわけもない。

だから、ハッと気付いた時にはもう遅かった。
ツゥ…と尻から太股をつたってパタッとフローリングに落ちたそれを見て、一気に身体が熱くなった。



「うわっ…、」
「ん?ああ、漏れたアルか。」
「あ…っ、や…、劉、ごめっ…」
「?何で福井が謝る??」




それは…そうかもしれない。
だけど、何かもう、自分の身体から出てきたとこ見られたのが恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしい。
それでフローリングを汚してしまった事実も恥ずかしい。

恥ずかしい。
情けない。
劉の目の前で、こんな、




「福井、…後でちゃんと拭いておくアル。大丈夫。」
「…………、……」
「大丈夫アルよ。」
「…………、……ん。」



優しい口調と、優しい目。
オレが恥ずかしがる必要も、情けないと思う必要も無いからって…言われた気がした。
気にすることなんか何も無いから大丈夫、って。
そう言われたような、気がした。

だから、劉の胸の中で、自然に首を縦に振っていた。




「(福井昨日から凄い素直アルな…)…可愛い過ぎて今すぐ抱き殺してーアル。」
「…劉。」
「ん?」
「……お前、今…恐ろしい本音がダダ漏れだったぞ…」




劉のこういうとこは相変わらずドン引きレベルだけど。
でも、そうは分かっていても…今は。
今だけは。

……このまま大人しく、劉に身を任せるのも悪くないかも、なんて。

我ながら…らしくねぇことを思ってしまった。





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