春日サン誕生日記念小説(岩春)





※大学生設定。一緒に暮らしてますが岩春というより春→岩、です。
(でも岩春!!)




********









「……ん?なにコレ?」




テーブルの上に無造作に置かれた小さな紙袋。
見たことのあるその紙袋は、オレがよく買い物に行くセレクトショップのものだった。
それが、なぜテーブルの上にちょこんと置いてあるのか。

ん〜……最後に行ったんは二ヶ月くらい前か??
でもコレ、シールしてあるし開けた形跡ねーし、……何だ???

手に取って「ん〜?」と首を傾げた。その時。
ガチャリとリビングの扉が開く音。
後ろから掛かる声に身体が自然に振り向いた。





「帰ってたのか。」





あ、そうそう。
言い忘れたけど、この家にはオレともう一人、住人がいる。
そいつがさっきの低い声のその人物。

岩村努とは一緒に暮らし始めてもうすぐ半年になる。


岩村は高校時代の部活仲間だ。
高校卒業後、進路は別だったが互いに自立を目指していたオレと岩村は『家を出て一人で暮らす事』を考えていた。
そんな会話を何気なく交わしていた時だ。

家賃の負担を少しでも軽くするため……いわゆる『シェア』をして一緒に暮らすのはどうか、という話になったのだ。

意外だが、これは岩村から提案してきた事だった。

そして、オレには、
……オレには…断る理由なんて、1つもなかった。

オレは……好きだった。
友達としてじゃなくて。
そういう綺麗な意味じゃなくて。
恋愛の対象として。
触れたいとか、触れてほしいとか、そんな、…汚い意味で。
岩村の事が好きだった。

ずっと、心の内に秘めて、秘め続けていた。
消したくても消せなくて、消えてくれなくて、いつでも心ん中には溢れ出そうな程の、岩村への想いがあった。
言えるはずもない想いが。




『……一緒に暮らすん?オレと?お前が??』
『お前が嫌なら構わんが…金銭的にも少しは楽になると思わないか?』
『そりゃ〜…まぁね〜……』




岩村が提案したことは『シェア』であって、決して『同棲』とは違う。
互いの利の為だということも分かっていた。
オレに好意が有るわけではない、そんなこと、勿論分かっていた。

でも。
それでも良かった。
なんでも良かった。

まだ、岩村の傍にいれる。
それだけで良かったから。

だから、その場ですぐ返事をした。
『おっけ〜い』なんて、いつも通りの緩くて軽い口調で言ったそんなオレの言葉に、岩村は『卒業しても宜しく頼む』と笑った。

その時、オレの胸が破裂しそうなくらいドキドキしたこと。
震えそうになる手をギュッと握り締めて堪えていたこと。

岩村は、知らない。







そうして数ヶ月。
シェア…つまり、同居はわりと上手くいっている。
男二人、不器用なりにはやっていけてる方だと思う。

先に帰った方が早めに風呂を済ます、というのも何となく決まったルールで。

濡れた頭をタオルでガシガシ拭いながら現れた岩村に、「帰ってたのか」と声を掛けられることは「おかえり」と言われていることと同義だった。



「たっだいま〜〜。」



そう答えると、いつも決まって岩村は、黙ったまま、ただ口角を少し上げて笑った。

オレはその小さな微笑みが凄く好きで。
胸が締め付けられる程、好きで。

でも、ぎゅう、と苦しくなる心臓に気付かないフリをして、自分の気持ちさえごまかすようにパッと笑顔を作ることにももうすっかり慣れてしまっていたから。

今日もヘラッと笑って、手にしたままの紙袋をプラプラと揺らせてみせた。



「ってかコレなに〜?なんか置いてあったんだけど??岩村の?」
「ああ、いや…それはお前のだ。」
「ん?オレの???」




どういう意味?と怪訝な表情で再度紙袋を見つめるオレに、岩村から少し呆れたような視線を送られ。
しまいには「はぁ、」と溜め息を吐かれてしまった。




「……今日誕生日だろう。だから…まぁ、……プレゼントだ。」




またガシガシと頭を拭いながら、そんな一言を呟く岩村。
オレの後ろを通って冷蔵庫からスポドリを取り出し、グラスにトクトクトクと注ぐ音がする。

………え???
いや……ごめん、……えっと…
……何て言われたっけ?
今、何て。

誕生日??
あ、オレ、今日誕生日か。
だから……えっ〜と……
(……あれ?…身体、が、固まって動かねーんだけど。)




「?どうした?」
「……え、っと……」
「もしかして忘れてたのか?……はぁ…、一応これも用意したんだがな。」



また溜め息吐かれた。
で、突っ立ったままのオレの前に、テーブルに、そっと置かれたのは岩村のゴツイ手に似合わない可愛らしい箱。
誰がどうみてもケーキの箱だ。



「……お前が買ったの?」
「ああ、人気店らしい。そこそこ混んでた。」
「……、……ふっ、…くくっ……」
「何が可笑しい。」
「あはは…っ、だって、おまっ…お前みたいなゴツイやつが、ケーキ屋って…っ」




絶対浮くだろ。
オレが店員なら間違いなくビビるね。
こんな馬鹿デカイ、ごつい男がこんな可愛いケーキ選んでる姿なんて誰が想像できるよ??

その場にいた店員と客の目ぇ丸めたトコロが安易に想像できてウケるんだけど。

ウケる、ほんと。
どうしよう。
なんだよもう…、
可笑しくて、涙出そうになる。



「店員サン、ビビってたんじゃね〜の〜?」
「……お前は一言多い。食わんなら俺が全部食うぞ。」
「食べるに決まってんでしょ〜」



多分図星だったんだろう。
複雑そうな表情を浮かべて椅子に座り、無言でケーキを皿に装っていく岩村の前にオレもゆっくり座った。

ひぃひぃ笑いながら目尻に浮かぶ涙を拭うオレを睨みながら、今度は心底呆れたように深〜〜い溜め息をこれみよがしに吐き出されてしまった。



「悪い悪い、これさ、プレゼント、開けてもいいん?」
「……ああ。」
「なんだろね〜〜」



ひひっと笑って中身を取り出す間、岩村は仏頂面でケーキを突いていた。

岩村が、下を向いていてくれて良かった。
つーかそもそもコイツが、バスケ以外には結構鈍くて無頓着なヤツで良かった。

バレたら終わりだから。
全部、終わってしまうから。

……なのに、手が、震えて…箱に結ばれたリボンさえ上手く解けないなんて。
情けなくて自分でもビックリする…はは…。

……嬉しくて、涙が出たとか、死んでもバレたくない…マジで。



「あ、キーケースじゃん。」
「…前言ってただろ。鍵がすぐに見つからんって。…鞄の中に何でもかんでもほうり込んでるからそうなるんだ。」
「……オカーサンみたいだね〜。」



ふざけてそう返すと、またムッと眉間にシワ寄せて睨まれてしまった。



「うるさい。嫌なら使わんでいい。」
「ははっ、怒んなって〜。嬉しいから、マジ。ありがとねぃ。」
「………19か…誕生日おめでとう。」
「―――…うん、サンキュ。」
「……ん?食わんのか?」
「今から食うよ〜ん。」






一緒に住んでるこの家の、鍵を。
何よりも大事だって思うそれを。

……その鍵を、直す場所まで、お前に貰えるなんて。
これ以上嬉しいことなんか、あるのかな。

お前に「お誕生日おめでとう」って、言ってもらえるなんて。
これ以上幸せなことなんか、あるのかな。


なぁ、岩村。
お前さ、オレを喜ばせすぎだよほんと。
これ以上もう、お前のこと好きになりたくないのに。




「うわ、このケーキめっちゃ美味いじゃん〜。おかわりもらおっと。」
「……俺も貰う。」
「マジ?太るんじゃね〜の?」
「喧しい。」
「あはははっ」




甘くて可愛い、人気店のケーキ
お気に入りのセレクトショップのキーケース
そんで
いつもと同じ、ふざけた会話


幸せすぎて
その日オレは
笑いながら、泣いた。






〜END〜





*******




9月2日、
春日サンっHAPPY BIRTHDAY!!!

ってことで書いちゃった…
書いちゃったよ…岩春小説。
(春→岩だけど)

きっといつか、今とは違った意味で春日サンが幸せになる日がくると思う!!
岩春になる日が……!!


お粗末さまでした…(^_^;)
2014/09/02
キサラギハルカ





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