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「……死ぬかと思った…。」




穏やかならぬ言葉にキッチンで冷たい飲み物準備中のオレは苦笑するしかない。

とりあえず「どうぞ」とお茶を入れたグラスを差し出すと、ぶんっと奪うような勢いで取られてしまった。

ごくごくと一気に飲み干し、ダンッとテーブルの上に空になったグラスが叩き置かれる。



「はーー…、…死ぬかと思った…」



そして繰り返された問題発言。
さすがにオレ、この言葉を2度もスルーするなんてこと、できない…。


「先輩…あのー…大丈夫っスか?」
「…黄瀬…」
「ちょっ、先輩カオ怖い!!」


テーブルに片肘つきながら、もう片手で額を押さえて、ものすごく恨めしそうにジロリと睨みつけられる。その顔の怖さたるやもう!

えっ…オレらほんの小1時間前に付き合って初めてのセックスしたばっかりだよね?!!
そういう関係だよね?!!!



「…そんなに…い、痛かった、っスか?」
「……あー、まぁ…死ぬかと思ったな…」
「ま、まさかの…3度目っスか…」
「つーか…正直ナメてたわ俺…」



行為中の可愛くてエロエロモード全開の先輩はいったいどこに行ったんだろう。
目の前にいるのがさっきまで可愛い声で「もう無理、やだ」って鳴いてた人と同一人物とは到底思えない。

けど、そういう先輩が好きなオレとしては苦笑するしかないというか、謝るしかないというか…。



「…ご、ごめんなさいっス。」
「あ?何でお前が謝るんだよ。」
「えっ…、や、だって…痛くしないって気をつけてたんスけど…」



やっぱりいざ本番となるとそういう訳にもいかず…先輩の口からは何回も「痛い」という言葉が飛んだ。
それはオレがちゃんと反省しなきゃいけないことなんだと思う。

しりすぼみになりながらボソッと零したオレの言葉を聞いた先輩からは、ビシッ!!と強烈なデコピンが返された。

え?
なに?痛いっ!!



「っとに…お前、そういうのは気にしなくていいっつの。」
「で、でも…」
「…あんなもん、痛くて当然だろうがよ?……それでも…俺はハッキリさせたかったから。」



なにを…?って聞くのは野暮だろうか。でも、聞きたい。
複雑そうに眉を寄せる先輩の顔が赤く染まってるから。
期待してしまう。

オレの欲しい言葉を、言おうとしてくれてる気がする。



「なにを…っスか?」
「……。」
「笠松先輩、」
「…っ、……だから…、…………………お前のことが…す、すっ…、………………き、かどうかだよ…」



だいぶ小さな声だけど、そんな可愛いことを言ってフイッと顔を背ける先輩。
…耳まで赤いとか…反則っス。

ほんとに可愛い。
心臓がドキドキしたりギュウッて締め付けられたり、…オレはほんとに先輩が好きだって思い知らされてばかりだ。



「…で、先輩…答えは?」
「え?」
「エッチして…ハッキリしたんスよね?…聞かせて欲しいっス。」
「は?!!」
「…お願い、先輩。」




振り返った先輩の顔が真っ赤に染まる。
そういうの聞くか?!!って言いた気な顔だ。
それでもオレは真剣な眼で先輩の言葉を待った。
数秒間、ずっと待った。

すると先輩は身体ごとオレと向かい合うような体勢になって。
ふー…と深く深呼吸をしたあと、真っ直ぐオレの目を見据えて、言った。



「――…好きだ。黄瀬、お前が好きだ。」




……初めて、だ。
先輩からの「好き」っていう言葉。
告白も、キスも、全部オレからだった。
いつも好きっていうのはオレからだった。

先輩は「うるせー」とか「シバく」とか、「…仕方ねーヤツ」とか、「嫌いじゃねー」とか、そういうカンジで返してはくれてた。
オレはそれでも不思議と不安はなくて(不満は多少あったけど)、だんだんそれは普通になって。
そのかわりに、先輩が言わない分まで好き好き大好きと言うようになったんだけど。


だから、えっと……
好きって言われたのは、ほんと、今が…初めて…で…

あれ??
なんか、目の前がグラグラ揺れてる…



「…せんぱい……」
「な、なっ、なんでお前っ…泣くか?!!普通…!!」
「あれ、?なんか、勝手に、止まらない…」
「あーもう…何なんだよお前は…」



マジで馬鹿なヤツ、って言いながら先輩の手がオレの頭を乱暴に撫でた。
髪をわしゃわしゃとされて、今度はぎゅっと抱きしめられる。
オレより小さい身体。
なのに、ぜんぶ包み込まれてるような感覚。
安心感っていうのかな…
そういうのでいっぱいになる。

腕を回してオレからもぎゅっと抱きしめると先輩は「うぐっ」と低く呻いて(あ、力強すぎたみたい…)、だけど背中をぽんぽんと優しく撫でてくれた。



「…、…せんぱい、好きっス…」
「ん。知ってる。」
「……大好き…」
「…知ってるから。」
「うん、もう…めちゃくちゃ好きっス…」
「…、……、俺も。」




小さいけど、ハッキリした口調。

情けないことにオレの涙腺は緩みっぱなしで、またジワリと視界が歪んでしまった。
先輩の胸に埋めるようにして泣くのを堪えるオレの頭上では先輩の「はぁ〜…」という深い溜め息。




「…いい加減泣き止め、馬鹿野郎。」
「う、っ…だって、」
「あー…あとな、黄瀬…」
「は…はい…?」
「その…なんだ、…い、痛ぇだけじゃなかったから。」
「…え?」
「だから、…次ヤるとき…お前あんま色々気にすんな…俺は大丈夫だから…。」




言わずもがな、オレは固まった。
先輩に抱きしめられながらカチンと固まっていた。
オレのリョータ君も急速に固くなってたと思う。

同時に、オレは一生このひとには頭が上がらないんだろうなと悟った瞬間でもあった。


でも、…幸せ。
世界中の誰よりも大好きで、愛おしい。


(先輩、オレのこと好きになってくれて、ほんとに、ありがとう。)




ガバリと押し倒すのは数秒後。
2ラウンド目に突入するのは数分後の、お話。





〜END〜












*********



黄笠の関係性もすごく好き。

「笠松せんぱいが全ての黄瀬」「せんぱい中心で動く黄瀬」と「男前受け」は黄笠ならではだと(´∀`)

笠松幸男誕生日記念小説でUPしましたが、時間軸てきに季節は冬くらいを想定…。

ま、まぁ、何と言うか、ずっと書けてなかった初H小説をこのタイミングで…というカンジです。
そのあたりはお許し下さいませ(>_<)


何はともあれ黄笠ばんざーい!
笠松せんぱいお誕生日おめでとうっ!!


2014/07/29〜8/2
キサラギハルカ




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