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――…ガラッッ!!

勢いよく保健室のドアを開けると…2台並べられたベッドの上に、黄瀬と小堀がそれぞれ仰向けで気を失っていた。

……否、気を失ったフリをしていた。





「(こ、小堀先輩っ…ドア開く音したっス…!)」
「(……いよいよだな…)」




それぞれの枕元には御丁寧にペットボトルが用意されている。
そこに森山、そして笠松が近付く。
この時黄瀬は緊張のあまりリアルに脂汗をかいていた。
それが好を成したのか、側から見るとまるで本当に熱中症で倒れたかのように見えたのだ。

「おっ黄瀬なかなか演技上手いじゃん」と感心する森山の横で笠松の顔色は青へと変わった。




「ちょっ…先生は何してんだよ?!これヤバくねーのか?!おい、黄瀬っ…小堀!!」
「笠松、先生は…えっと、救急車を手配してるんだよ…!」
「きゅ、救急車…?!」
「とりあえず救急車が到着するまでの応急処置として、何とか水を飲ませて欲しいって…………先生がそう言ってたって、早川が!」



話のつじつまを合わせながら、森山は小堀の枕元に用意されたペットボトルを手にして素早くそのキャップを開けた。

この時、森山はまるで呪文のように己の心の中で以下の言葉を繰り返し唱えたという。



『これさえ我慢したら可愛い女の子と合コン…これさえ乗り越えたら可愛い女の子と合コン!!!!!!』



そして、森山がそう覚悟を決めてグビッと口の中いっぱいに水を含んだとき、小堀も同じく心の中で呪文を唱えていた。



『一瞬の我慢だ………黄瀬の為、黄瀬の為、黄瀬の為…………………!!!!!』



そして、次の瞬間、笠松は驚きに目を見開いていた。
なぜなら……

そう、森山が口移しで小堀に水を飲ませている、という衝撃のシーンを目の当たりにしたからだ。



「も…森山…お前……」
「……………。…………か、笠松も早く……黄瀬に何かあってもいいのか?!馬鹿だけど海常のエースだぞ!!」



ぐい、と口元を拭い、笠松には背中を向けたままそう叫ぶ。
用意された台詞は格好よく感じるものだったが、この時、森山の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいたとかいなかったとか。

しかしそうとは知らない笠松は、グッと覚悟を決めてペットボトルを掴んでいた。
そう…笠松は人一倍、男気溢れる人物なのである。
チームメイトの為にそうした森山を間近で見て、自分も躊躇ってなんかいられないと思ったのだ。



……小堀の作戦通りである。
寸分狂わず、作戦通りなのである。





「よし…黄瀬、お前は俺が助けてやるからな…!」
「(……お、王子様みたいっス…笠松先輩…)」
「…、ごくっ、………ん、」
「(ふわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ…!!!!!)」




水を含んだ笠松の唇が黄瀬のそれに重なる。
何とか飲ませなければ、と思う笠松は黄瀬の予想を超えて深く唇を重ねた。
それはもう大胆かつ男前に、ぶちゅっと重ねたのである。

触れるだけのキス…もとい、口移しではなく、まるで唇を割って更に深く重なるような、所謂ディープキスのようなそれに、黄瀬は昇天寸前だ。

「よし…作戦成功だ!」と笠松の背後でガッツポーズした森山と小堀だったが、そこで森山はある異変に気付いた。


…………ちょうど黄瀬の下半身辺り、被せたシーツがやや盛り上がっていることに。




「………(…こ、小堀…)」
「(どうした?)」
「(…黄、黄瀬のやつ…勃起してるんだけど…!!!)」
「(……………………………………あー…それは…俺の計画にはないなぁ…)」





その後、慌てて黄瀬から笠松を引き離し、言葉巧みに(無我夢中ともいうだろうが)笠松を連れてこの場から退却した森山。

残された黄瀬は、小堀もビックリするくらいに真っ赤な顔だった。
興奮冷めやらぬまま、何度も何度も頭を下げながらお礼を言う黄瀬に、小堀はヤレヤレと苦笑しつつ


「黄瀬、誕生日おめでとう。…まぁ…とりあえずトイレ、行ってこいよ?」



御祝いの言葉と冷静なアドバイスを同時にしてみせたのだった。





















森山が何とか理由をつけて笠松と部活に戻った30分後……、




「皆ごめんな、迷惑かけて。」
「もう大丈夫っス!」




まだ少し顔の赤い黄瀬と、その隣で満足そうな笑顔を浮かべた小堀がコートに入った。

心配そうな顔を浮かべて彼等に近づく笠松に黄瀬は満面の笑顔で駆け寄った。




「笠松先輩〜っ!!!先輩は命の恩人っス!!!一生ついていきます!!てゆーか大好きっス!!!!」
「……すっかり元気になってんな。…まぁ良かった、練習できんのか?」
「もちろんっスよ!!」
「…災難だったな。よりによって誕生日によ。」




笠松の言葉に黄瀬はブンブンと首を横に振り、「全然へっちゃらっス!(むしろ幸せすぎて死にそうだったし)」と幸せオーラ全開で答えるのであった。

そんな二人を微笑ましく見守るのは『黄瀬の誕生日くらい黄瀬を喜ばせてやろうかな隊』の2人+成り行き参加の早川。

結局良心が痛んだのは何故か、我関せずを貫いたはずの中村真也だけだった。





〜END〜




(……いくら計画とはいえ…小堀…お前にキスとか涙出たわ俺…。)
(まぁまぁ可愛い後輩の為だろ?)
(ちょっ、森山せんぱいっ…今のはなし何っスか?!!キスって何っスか?!!!その計画お(れ)知らないっスっ…!!!)
(ばっ…早川っ…おま、静かにっ…)
(はいはい早川、何でもナイからちょっと黙ろうなー)




********



黄瀬くん誕生日おめでとう!!
海常のみんなにちゃんと愛されている!!!……という話が書きたかったのです。
……森山先輩は合コンを条件に協力したんですが(・∀・)

補足ですが…当サイトの早川くんは森山先輩が大好きです。
ラブかライクかは分からないのですがとにかく大好きなのです。

海常バスケ部なごみます!



2014/6/18 キサラギハルカ




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