4
「福井、これ。」
「………。」
あ、やっぱりオレにな訳??
福井の顔はその心情を隠しきれていなかった。
マンションに入るなり、手に持っていた豪華な花束(しかも鮮やかな紅色の薔薇。)をワサッと目の前に差し出されたのだ。
驚きというよりはやはり呆れが勝っていた。
ただ黙って複雑そうに眉を潜めながらそれを受け取る福井を見下ろし、劉は首を傾げた。
想像してたものとは随分違う福井のその反応に、ついポロリと本音が漏れる。
「…福井、嬉しくないアルか?」
いや、花束なんて貰っても別に嬉しくはねーわな(オレ男だし…)と視線だけで伝えようと顔を上げるものの、福井の動きがピタッと止まる。
なぜなら、劉との距離が思いの外近くなっていたからだ。
いつの間に、と思う暇さえない。
まだ玄関で、どちらも靴さえ脱いでいないというのに、距離はもはやゼロになっていた。
突然ぎゅう、と抱きしめられて、バサッと足元に落としてしまった花束から甘い香りがフワリと舞った。
「ちょっ、りゅ、劉…!!」
「…花を贈ると日本人喜ぶって聞いたのに…」
「はっ?!!」
「……福井は喜ばねーのか…難しいアルな。」
「いや、つーか、何…?何でオレを喜ばせてーんだよ…」
なんだか少し落ち込んだような劉の声。
大きな背中をぽんぽんと宥めるように軽く叩き、尋ねる。
すると劉は福井を解放し、言った。
その瞳は先程の福井以上になにやら呆れ返ったものだった。
「福井、お前やっぱ阿呆アルな。」
「ああ?!!」
「好きな奴の誕生日、…喜ばせたいのは当然アル。」
「―――…へっ???」
阿呆と言われ、とっさに作った握りこぶしだったが、そのあとに続いた言葉に今日一マヌケな声を漏らしていた。
そして、もはや条件反射とでもいうべきか。
劉のストレートな物言いと、真剣な瞳。
福井の顔はみるみる朱に染まっていった。
「…えっ、あ!!…誕生日…忘れてた…」
「は?それ本気で言ってるアルか?」
「しっ仕方ねーだろ!!入学する前もしてからも色々忙しいんだよ大学生はよ!!!」
「……ふ、くくっ…」
「な、なに笑ってやがるっ」
「…ふふっ、福井が馬鹿すぎて腹いてーアル。」
「りゅ、劉っ、ちょっ、」
再び劉の腕の中へと収まる福井。
多少の抵抗はしてみるものの、先程の言葉を思い出すと抵抗する気力は薄れる一方だった。
『福井に会いに来たアル』
『好きな奴の誕生日、…喜ばせたいのは当然アル』
忘れそうになっていたことを思い出すには十分すぎる言葉だった。
このどこか冷めた生意気な年下の男は、どういう訳か自分のことを呆れる程に好きでいるのだ。
思い出せば、抱きしめられることくらいでジタバタしても仕方ない。
それを許すくらいには、自分も覚悟を決めてこの関係を続けているのだから、と福井は目を綴じて思った。
「…福井。」
「……み、耳元で喋んな。」
「…キスしたいアル。」
「おっ…まえ、マジ…そればっか……」
「もうずっと福井に触れてねーアル。気が狂いそうアルよ…」
「怖ぇーよ、お前!!」
予想もしない劉の言葉に思わず引いてしまう福井だったが、確かにそうだ。
劉の言う通り…卒業してから会っていない、つまり、約2ヶ月はこうして触れてないということ。
道理で抱きしめられて懐かしいと思ってしまうワケだ。
そう思って苦笑した。
「…キスしてもいいか?」
「い、嫌だっつっても、す、するんだろっ…?」
「まぁ、そうアルな。」
「嘘でもそこはしないって言えよ!!しかも即答かよ!!」
「……福井うるさい。」
「りゅ、劉のせい、だろ、」
「…目ぇ綴じろ。」
「め、命令、すんな、…んッ…」
「…。(ふっ…睫毛震えてるアル。)」
「ン、んっ…、ん……」
久しぶりのキスに福井が翻弄されるまでにそう時間はかからず、その後数分間は玄関先で幾度も唇を重ねることになった。
薔薇の花束は結局、牛乳パックの空箱に飾られることになったのだが(福井が花瓶を持っていなかった為)
後日劉からその写メを見せられた紫原と氷室が福井にメールを送ったことを劉だけは知らずにいた。
(『福ちん元気〜?紅色の薔薇の花言葉ってねー" 死ぬほど恋い焦がれています "だよー。知ってたー?オレも今度室ちんにプレゼントしてみるねー』)
(『福井さん、お誕生日おめでとうございます。まだ牛乳飲んでるんですね、少しは身長伸びましたか?岡村元主将にもよろしくお伝えください。』)
紫原のメールにボンッッ!!と赤面、氷室のメールにはただただ怒りが込み上げた福井健介19才であった。
〜END〜
*******
相変わらず劉が福井さん大好きだといいな(・∀・)
ともかく福井さんHAPPY BIRTHDAYっ!!!
2014/5/23
[ 97/217 ]
[*prev] [next#]
[戻る]