福井さん誕生日記念小説









秋田、陽泉高校




氷室辰也は頭を悩ませていた。
その要因たる人物が自分の目の前で自分の言葉をじっと待っている様子に焦りすら感じていた。

そんな氷室の態度は彼特有のポーカーフェイスのせいでその目の前の相手、劉偉には伝わっていない。
よって劉はやや胡散臭い笑顔のまま黙り続ける氷室に多少の苛立ちを覚えていた。




「…氷室お前一応日本人アルよな?」
「一応っていうのはあんまりだな…。れっきとした日本人なんだけどね。」
「なら勿体振らねーで教えてくれたらいいアル。」
「…。」




そう言われてもな…と氷室は苦笑した。
というのも氷室は別に勿体振っているわけではない。
ただ、劉の問いに対する正しい答えを持ち合わせていないのだ。

そう、

『もうすぐ福井の誕生日アル。日本人なに貰ったら喜ぶ?』

この、あまりにざっくりしすぎている質問に氷室は答えあぐねていた。


なぜなら…
『日本人で高校生で男なら、そりゃあ一般的にはバスケットボールとかバッシュとか、とりあえずバスケに関するものを貰えば大抵嬉しいんではないのか』……というのが氷室の考えなのだが。

以前それを紫原に言ったことがあった、その結果がこうだった。




『…は?それ冗談だよね?』
『そんなん室ちんだけだし。』

とどめに
『オレにそんなんくれるぐらいだったらまいう棒10本のがまだマシだから。』



と真剣かつ呆れ顔で告げられてしまえばもう。
未だに同じことを思っていたとて、それを口に出すことは躊躇われたのだ。





「氷室?」
「あ、えっと、そうだな…福井さんに直接聞いた方が失敗しなくていいんじゃないか?」
「それだとサプライズじゃねーだろ氷室バカ氷室。」




捻り出した苦肉の策も、冷たい瞳で一掃されてしまった氷室は心の中で思った。




「というか正直福井さんの誕生日プレゼントとか俺には全く関係ないし興味もないんだからそもそも俺に聞いてくるのが筋違いなんだよ。あと劉と福井さんまだちゃんと続いてたのか。それが意外で少し驚くところだけどでもそれが何だっていうんだ。結局どっちにしろ俺にとってはどうでもいい話ということに変わりはないしああもう本当にふざけるなよ劉この野郎。」




微笑みながら、そう思った。
それはもう息継ぎナシで一気にまくし立てる勢いで、思ったのである。


その結果、劉は不穏な空気を感じたのだろう。
早々に氷室の前から立ち去り、次なる相談相手のもとへ足を運ぶのであった。




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