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ガァンッッッ!!!!!



思わず反射的に瞳を綴じてしまうくらいの衝撃音。
教室後ろの黒板まで追い込まれたと思った瞬間、アツシの両手が俺の顔の横を掠めたのだ。

…ただ怒らせただけじゃない。
俺はアツシを『本気で』怒らせたんだ。





「…、……。」
「なに?なんなのその顔?」




マズイ状況に身体が強張る。
それが顔にも表れてしまったのだろうか。
言葉を飲み込むように黙ったままの俺をアツシの紫の瞳が威圧的に見下ろしていた。

怒らせた。
でも、俺だって怒っている。
ただ殴られてやるわけにはいかない。




「…退けよ。」
「退くと思ってんの?」
「…っ、」
「なに睨んでんの。むかつくなー…もー…」
「!!」




アツシの右手が動いた。
殴られる、と思ってガードの態勢をとろうとしたが、俺の読みは完全に外れていた。

だってこの状況で。
こんな場所で。




「…っんンンッ……?!!」




ゴツッと頭が黒板にぶつかる。
殴るために動いたと思ったアツシの大きな両の手は、俺の片腕と顎をガッチリと固定し、押さえ付けていた。

こうなったら後ろは勿論、左右どちらにも逃げれない。

本気でキレてるのになんでキスなんだ。
アツシの思考回路はどうなっているんだ。




「ん、ふっ…ッ!!!」




必死に綴じていた唇に舌が無理矢理捩込まれる。呼吸を整える為に薄く開けてしまったところをヌルリと熱い舌が侵入するやいなや、咥内を好きなように弄られて背筋がぶるりと震えた。

深い。
こんなキス、セックスの時にしかされたことない。




「ぁふっ…あ、はっ…はぁっ…」
「………絶対やだし。」
「はぁっ…、は、…アツ、シ?」




今度はギュウッと抱きしめられる。
全く次の行動が予測できない。

なんでキス?
なんでハグ?
なんで…………
なんで、そんな辛そうな声…





「アツシ…?」
「………ふざけんなし。」
「…怒っているんだよな?」
「怒ってる。すげーむかついてる。室ちんなんかキライ。」
「……じゃあなんで、俺は今こうされているんだ?」




離さない、とでも言うように、力強く抱きしめてるのは一体なぜ?
頭上に降る声が辛そうなのは、なぜ?





「……キライとか…室ちんから1番聞きたくねー言葉。」
「…アツシも今言った。俺がむかつく、キライって。」
「………。」
「アツシ?…うぐっ!」





うっさい黙れ、というように腰に回された腕に力をこめられて内臓が出るかと思ってしまった。

なんだろう。
とりあえず…あまりにもアツシの行動が予想外の連発すぎて…
(…ああもう…仕方ない、と思えてきたじゃないか。)



………こういうの『絆される』っていうのかな。
それとも、『惚れた弱み』っていうのかな。

こんなふうに…抱きしめられたら、さっきまでの怒りなんてどこかに飛んでいってしまうじゃないか。

まったくもう、と一つ深い溜め息をつくと、アツシがまた抱きしめる腕に力をこめた。




「…やだから。ぜったいやだ。」




そういえばさっきからやたら言うな…"いや"って。何がいや?
辛そうな声で何がいやだと訴えているんだろう。




「……アツシ、もう怒ってないから。話しようか。」
「………ほんとに?」
「このままじゃ…話せないだろう?けっこう苦しいしね。」
「わかった、離す。」
「Thank you、…で?何がいや?何でお前まで怒ったんだ?」



見上げると、さっきまでの威圧的なアツシとはまるで別人…悪戯を叱られた子どものように肩を丸めている。
だけど真っ直ぐ俺と視線を合わせて、こう言ってきた。




「別れない。室ちんがオレをキライでも、ぜったい別れないよオレ。」
「…………、は?」
「別れんのは嫌。ぜったい嫌だし。」
「ちょっ…Wait!Wait!」




えっ?!
何言ってるんだアツシは。
ちょっと待って、考えが追い付かない。
誰と誰が別れるって?

っていうか、いやこの場合、アツシと俺が別れ話をしたことになるのか??

俺はアツシの自分が悪いのに頑として謝らないところが「嫌い」と言っただけだぞ?!!!




「ア、アツシ、すまない…勘違いさせたのかもしれないけど、誰も別れたいなんて言ってない…。」
「えっ。」




あ、素でキョトンとしてる。
(というか結局俺が謝ってるし…)

ああだめだ、詳しく説明してよ、って顔してる。本気で勘違いしていたのか…。
たった一言、『嫌い』と言っただけなのに。




「……あのな、あの時俺は…お前の"謝らないところ"が嫌いって言ったんだよ。」
「……謝らないって…、室ちんのピクルス捨てちゃったこと?」
「そ、そう…」





なんか改めて思うと…俺も少し大人気なかったような気も…しなくはない…かな…。
(いやでも捨てたこと云々じゃなくて、謝らないことに怒ってたわけだが。)




「わざとじゃないって言った。」
「……わざとじゃなくても、謝って欲しかったんだよ。」
「………………じゃあ、謝ったらキライって言葉取り消してくれる?」





どこまでも真っ直ぐ、本気で、妙なことを言う。
キライなんて言葉、売り言葉に買い言葉っていうか……誰でも日常的に何かしら発しているだろうに。

キライって発言を取り消して、だなんて。
初めて言われた。




「ねぇ、取り消してくれる?」
「…、…ああ、取り消すよ。」
「うん、じゃあー…、室ちん、ごめんなさい。」



巨体をぺこりと曲げて丁寧に謝るアツシのこんな姿、誰が想像できるだろう。
いろいろ問題はあるけれど、駄目だ、胸がきゅうって締め付けられて苦しい。

愛おしくて、苦しい。
今すぐ抱き着きたい。

たかが一言。
キライという一言。
俺のその一言で、アツシがこんなに感情的になるなんて。

怒ったり、別れたくないと言ったり、素直に謝ったり…
(……俺のこと…一体どれだけ好きなんだよ…)





自分で思って自分で赤面してしまう。
だってこんなにも強い独占欲や愛情(少し捻くれてる気もするけど)を向けてくれる相手はアツシが初めてだから。


……ああもう、
本当に仕方ないな、アツシは。


















「もうぜったい言わないでよねー。」
「…気をつけるよ。」
「でも室ちんアレだよね。」
「?」
「すげー根に持つタイプ…、痛ッッ!!!」
「あ、悪い。つい!(殴ってしまった!)」









今度は同時に謝ることでアツシを納得させました。








〜END〜






*******




独占欲は紫原くんのが強そう。

氷室兄さんは口より手が(足も)出るタイプだわ売られた喧嘩は買うタイプだわ、ビューティフルヤンキーすぎてアッパレ(*^ω^*)

でもそんな紫氷が大好き!






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