黄瀬と笠松 転









何が起こったのか
何をされたのか
理解できなかった

…違う…あの時…
何をされたかは、分かった

だけど、なんでされたのかがすぐには理解できなくて…




『先輩、好きです。』
『好きになってごめんね。』



……理解、できた時にはもう、アイツの姿はなかった。














〜転〜










「あれ?ほんとに黄瀬休んでんの?」
「……みてーだな。」


キョロッと体育館を一周見渡して森山が声をかけてくる。
返事をすると、どういう訳か顔を覗き込まれた。

至近距離で森山の顔を見ると相変わらず女みてぇに綺麗な面してんな(変人のくせに)って心ン中で思ってしまった。



「ね、笠松。」
「あ?」
「…黄瀬と何かあった?」
「――…、は!?」


首を傾げて問われた内容に思わず声が上擦って、持っていたボールをボトンッと床に落としてしまった。
そのボールをヒョイッと拾って、変なフォームでスリーを決める森山が憎い。


「な、な、なんで、」
「え?だってまるで黄瀬が『休む』って分かってたみたいなリアクションだったから?」



こいつ、変なところが鋭いっつーか…。
(そんな態度とったか俺…?)




「まぁ何でもいいけど、明日も来ないとか…そういうのはナイよな?」
「…………、…俺が知るか。」
「えっ笠松、主将のくせにそりゃ無責任ってなもんだよ?エースの不調は主将がなんとかすべきじゃないの?エース不在でいいわけないじゃん??」




……うざい…
なんだそのわざとらしい、いかにも『後輩を心配してる優しい先輩なんです私』的な台詞と顔は!!


どうせ森山のことだ…



「お前、黄瀬がいねーと練習見に来る女子の数が少なくなるから、ンなこと言ってんだろ。」
「…わ〜ぉ、さすが主将…!」



お見事、と片目をバチンと綴じて星を飛ばしてくるようなウインクがマジうぜぇ。

…まぁでも森山の言うように…今日はともかく、あの馬鹿…明日も休むつもりか…?


明日も
明後日も…?


………つーか…
……アイツ…このままでどうするつもりだ…





『先輩、好きです。』





昨日…家に帰ってからも考えたけど…
…好きって…マジでか。

分かんねーよ
お前みたいな何でも出来る奴が
女にもアホみたいにモテまくりで恋愛に不自由なんかしたこともねー奴が


……なんで俺だよ。





「てゆーか笠松さ、」
「…今度は何だよ。」
「腕どうしたの?けが?WC前なんだから気をつけてよ?」



鋭いだけじゃなくて目敏い。
ツンッと突かれたのは、左腕の痣。
不意をつかれたからだ。
めちゃくちゃ動揺してしまった。



「うわっ…こ、これはっ…」
「あれっ?えっ…右腕もじゃん!なにその痣…なんかホラー!」
「っ、何でもねーよ!」




確かにホラーだ
あんの馬鹿力…
両腕に痕残るとかどんだけだよ

どんだけ、すごい力で、





『黄っ…瀬、んンぅっ…』
『……、…はっ…、先輩…』





…………って…
うわうわうわっっっ
(何を思い出してんだ俺はぁっ?!!!!)

頭ン中に浮かべてしまった昨日のアレを、慌てて消却しようと自分の頭を掻きむしると、後ろから森山の本気で心配そうな声が掛かって死にたくなった。



「笠松ぅ…ほんとダイジョーブかー?」
「……大丈夫だ。おら、いい加減練習始めるぞ!!」
「はーい。」





その日の練習は散々だった。
事あるごとに思い出してしまうあの馬鹿の声と、体温と、真剣な瞳のせいで…俺のシュートは全然入んねーし、森山はうざいし早川はうるせーし…



……ほんと、散々だった。







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