うちゅうひこうしのいいわけ




「土方」

呼ばれたような気がして振り向いた。
そこには








【うちゅうひこうしのいいわけ】




「燃料はあとどれくらい残ってる」

「さぁ、何しろ計器はどれも動いてない」
今指してる数値が正しいのかどうか確かめようがねーよ

くそ、何でだよ
何でだ

彼は宇宙飛行士で、俺は地球からの指示者。
仕事中、は。

「なぁ土方」
「…」

坂田銀時は、根拠のない自信に満ちた奴だった。
反対に俺は、論理的に物事を考えていつも十分にベストな選択を求めていた。
俺にないものを、確かにあいつは持っていた。
持っていたのに、いや、持っていた、から?



「トシ、今日から組んでもらう飛行士の坂田銀時だ。」
「どーもぉ」
はじめから、堅苦しい奴をばかにした態度が気に食わなかった。
「何でこんな白髪ですぐくたばりそうな奴を連れて来たんですか」
「ちょ、本人目の前に居るからね、俺ここに居るからね」
「うっせぇ、黙っとく事も出来ねぇのか」
「ちょっトシ、」
「な、っんだとコラァァァアアアア!!!挨拶しただけだろーが何が気にさわったんでしょうかぁぁぁあああ?お前こそ挨拶すらしてないからね!聞いてないからね!無駄に瞳孔開いた目ぇしやがって実はお前はもう死んでいるんじゃない!?」
「うるっせぇっつってんだろぉがぁぁぁぁああああ!!!!!徹夜続きで身心共にまいってる時にこんなふざけたヤロー寄越されたら誰だって苛つくわぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
「あ、徹夜続きだったの?それはお疲れ様です」
「あ、いやこちらこそ怒鳴ったりして」
「あれ、ってゆうか多串くんじゃね?んだよビビったぜ金魚元気?」
「初対面だぁぁぁぁああああ!!!!!」

「…本題入って良い?」



坂田の躰は見るからに宇宙飛行士向きだった。
本人は訓練なんて生まれてこの方一回も受けてないと言い張っているが、絶対に嘘だ。
しかもそれを俺以外の誰もが指摘しないあたり、このバディには裏がある。

「何で多串くんは」
「多串やめろ天パ、カス」
「…何で土方くんは司令官なの?」
「……」
「黙秘権ですかそうですか、こちとらそちらさんのキモチがさっぱりですよ、ポン酢かけて喰うぞコノヤロー」
「てめぇこそ、何でそんなに慣れてんだよ。どっかの機関に属してたのか」
「……」
「おいコラ殴るぞ」
「本当やめて下さい暴力反対」

それでも坂田は核心的な事は何も言わなかった。
良く動いてくれる部下のエンジニア(山崎)にも探らせたが、どうも掴めない。

掴めないまま、プロジェクトは驚く程スムーズに進行していった。




なのに




「なぁ土方」
「…」
「わかってたんだろーが、これはミスなんかじゃあない」

坂田の声は、穏やか過ぎて
本当はもう生きていないんじゃないかと思うくらい穏やかで

「もとから、人間は帰還出来ないプロジェクトだったんだ」

「…っ人、ひとりの命と、ただの石っころどっちが大事かなんて小学生でもわかるだろうが!!!!」

「………」

悔しい
わかっていれば

もっと核心をついていれば止められたのに


俺は、止められる立場だったのに

「土方、」

「…なんだ」



「プロジェクト成功、おめでとう」

俺は無駄に死ぬわけじゃないだろう
お前が俺の死を無駄にするのか?

そう、言われた気がした



通信は、切れた

俺はいつまでも真っ暗なモニターを見つめていた

みんな部屋から出て行って

夜になっても

この足はまるで縫い付けられたように動かなかった



坂田はもう



もう、








ブツンッ

「!?」

急に明るくなったモニターに目がくらみ、
足がよろめいた

「あー、やっぱりまだ居たか」

「さ、…?」
坂田が映っていた

どうして?
本物?

バカヤロー

ぶつけたい言葉は山ほどあるのに
喉がひきつる

「はぁい、多串くん」

「お前、なん…幽霊か?」
「は?あれ?お前マジで計画知らないわけ?おいおいジミー何やってんの」

どういう事だ
誰か状況を説明しろ

「…ま、いっか。取り敢えず明日、ええーとどこだっけ、海に落ちるから、拾いに来てよ。場所はジミーに聞いて」

「だからっ!どういう事だよ!!!」
「土方くんが好き過ぎて死にきれない、帰ったら覚悟しとけよ」



ブツンッ




「………ヤマザキィィィィィイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」







取り敢えずよくわからないまま山崎を見つけ出し数発殴った。
その後事情を説明させたが、坂田さんに聞いた方が良いのではとか言われた。
何となくムカついたのでもう一発殴った。

次の日、山崎と一緒に車で着水地点近くに向かった。
回収班はボートで乗組員を迎えに行ったが、俺は陸地で車にもたれ、煙草をふかす。


「土方」

呼ばれたような気がして振り向いた。
そこには

存外元気そうな坂田が、こちらに手を振っていたのだ。






表むきの計画は、石だけが返ってくるというものだったんだけど、やっぱりそれって何かおかしいじゃん
だから、地球の石っころ持って行って、ケースに入れて、予定通り地球に飛ばしたけど、
そんなんすぐにバレんだろ?
けど、乗組員が死んだ事にすりゃ
お前らは知りませんでしたで済むかなーって
「済むかぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「で、家もないし、多串くんと一緒に生活しても良いかな?俺の味噌汁は絶品だぜ?むしろ海外逃亡して結婚しねえ?」
「人の話を聞けぇぇぇえええええ!!!」




怒りは沸点をこえましたが、心のどこかでほっとしている自分も確かにいました。
坂田が無事に帰って来てくれて良かったです。


あれ?
作文?








宇宙飛行、死の言い訳。





End
−−−



お互い無い物ねだりで惹かれ合ってる描写をもう少し入れたかったけど、
そしたら長くなるし取り敢えずまとまったので終わりにしました。

途中まで死ねたで考えてて、本当は坂田さん戻って来ない予定だったのに
意に反して戻ってきやがりました。
愛のチカラですね

やっぱり物語ってのはハッピーエンドじゃないとかわいそうだと思うんだ…

今宇宙もの流行ってますが、便乗して書いた訳じゃないと言い訳してみる(^^)
去年から書いてたもんね
まあや氏の歌から思いついたんだもんね


言いつつ、日食は地味に楽しみにしている
2012.05.19


*prev next#

















人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -