煙草をやめさせる一番の方法


「…」
書類チェックの折に、部屋に居座る山崎が
不思議そうに見て居るのは
武装警察真選組副長、土方十四郎である。
いや、実際彼には嫌と言う程会っているのだが、
ならば何故そんなに見つめているかと言うと
男が常用していた筈の煙草が見当たらないからである。
そりゃあ偶には吸わない時もあるだろうが、どうやらそうじゃないらしいのだ。
いつも机の上、手の届く所に置いてあった筈の灰皿すら
見当たらないのだ。
禁煙している。
一言で言えばそうなのだが、
今まで近藤局長に言われても止めなかった煙草を
何故

この時期に止めたのか。
確信すら無かったが、きっと何かある。
いや、何かあったのだろう。
だが、容易に聞き出せる相手ではないのだ。
土方十四郎は、そういう男だった。

土方の禁煙には隊の殆どが気付いているらしく、けれどその中の誰も真相を知らないでいた。
例に同じく、である。
近藤局長は禁煙に気付いていないようで、違和感に首を傾げている。
沖田隊長は、今更禁煙したところで…と、普段とそう変わらない。
禁煙はむしろ良い事だと思う。
皆が求めているのは、その種明かしだった。
禁煙を始めたのは三日前。
一日目は気の所為かなで終わり
二日目に理解し始め
三日目に確信する。
彼は四日前、非番だった。
誰と会い何をして、何があったのか。






「え?何コレ?尋問?」
「い、やぁそうじゃないんですけど」
何があったのかなぁって、と語尾を濁しながら山崎は頭を掻く。
赤い長椅子に座り、二人の間には三色団子が静かにあった。
「しかも何で俺。」
串の一つをつかみ口に頬張る。
「…非番の日は」
「はいはい確かに会ってましたよ、確かに、」
銀時はうんざりとした顔で投げやりに答える。
「あいつの性生活監視してんなっつの」
苛立たしく呟くと、串を山崎に向けた。
「近年だか再来年だか知らねーけど、お宅等と同じく何度言ったって聞きゃあしなかったぜ」
「禁煙です。」
「…まぁ兎に角だ、そういう訳だから他を当たんなさい」
「はあ…」
と彼の串から目を放し掛け、静止する。
「うん?何」
「旦那、小指どうかしたんですか?」
肌の色と同化していたが、そこには絆創膏が貼られていた。
山崎が手を伸ばすと、小指さえ動かさなかったが、彼は





「触らないで」





低い声で唸ったのだった。

その後、赤い糸が切れたとか何とか濁していたが、
山崎は



確信した。










土方は止めろと言っていた。
不用意に後ろから抱き付くなと、たたっ斬るぞと、毎日の様に。
悪い予感がしたのだ。
悪い予感が、的中したのだ。
本当に微かな火傷だったが、それは土方の心に大きな火傷を負わせた。
俯く土方を見かね、銀時が口を開く。
「そんな顔しなくて良いのに」
確かに忠告を無視した銀時が悪いのであり、土方がそこまで負い目を感じる事は無い。
「…だが、」
しゅん、と下を向いて自分の手を握り締める。
先刻まで吹かしていた煙草の匂いが鼻についた。
土方がソファに座り、
銀時は壁にもたれかかって居た。
沈黙がふたりを包む。
明らかに自分の気持ちが変化している事を、土方は自覚していた。
出会った頃は、今目の前に立って居る男を有無を言わさず斬り殺そうとしていたのである。
それが
道で見かけ
街で会い
顔をつき合わして居るうちに、
どうして
こうならずに居られようか。
煙草の火傷だけで、
こんなにも
こんなにも。
銀時は壁から背を放し、土方の目の前に指を差し出した。
小指越しに銀時を見る。
火傷した箇所を唇に押し付けられ、土方はなすが儘そこに接吻した。
銀時の口の端が上がる。
「ほら、どって事ないでしょ」
「何が…」
「何でも」
差し出していた手を頬に回し、
今度は口で口付ける。
触れるだけの、短い接吻。
土方は反射的に瞼を閉じ、銀時はそこにも接吻を落とした。
「土方の方が痛そうな顔してる」
それに傷付いた様に銀時は苦笑いする。
土方は更に申し訳無さそうな顔をしようとしたが、
首に手を回して
額を
こつんと当てて
「じゃあ」
「…」
「キズモノにした責任、とって?」
銀時がからかうように優しく囁いた。
「!」
拒否権等は無くて
それさえも解っていて
付け込むような目で、瞳を見る。
そしてふたりは

静かに



唇を合わせたのだった。







−−−
どうやらうちんとこの土方さんには
乙女属性があるようです。
2012.01.20


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