「……あれ」
放課後、バスケ部マネージャーである私は、部室の鍵をもらうために職員室まで来ていた。顧問の先生が普段は鍵を預かっているからだ。しかし、その顧問が不在のようで。
明後日は部員達の試合だから、必要なビデオとかノートとか、色々出そうと思ったのに。
「あれ、葵じゃない。どうしたの」
「あ……」
(カ、カカシ先生!!)
困ってどうしようかと立ち往生していたら、そこにいたのは密かにずっと私の憧れである数学のカカシ先生の姿。相変わらずかっこいいなぁ……なんて思わず見惚れてしまいそう。
彼は女の子にすごくが人気があって、私はその中のただの一人にしかすぎない。バレンタインだって、この人は何個もらっていたことか。まあかくいう私も、どさくさに紛れて「義理チョコ」という名目で渡してしまったんだけれども。先生は「ありがとね」って優しく笑ってくれたっけ。だけどその笑顔をあと何人の子に見せたんだろう、て思ったらちょっと胸が痛かった。
「あ、えっと……アスマ先生探してるんですけど」
「アスマ?あぁ、葵はバスケ部だもんな」「は、はい」
覚えててくれたという事実に胸が高まるのはおさめて、いかにも普通を装う。
「あいつ、今日クラブ始まるぎりぎりにしか出張から帰ってこないみたいだよ。もう少し待ってればくるんじゃない?」
「そうですか……」
それなら仕方ない。ちょっと練習には遅れてしまうけど、今日中に取りに行ってしまいたいし。
そう考えていたら、カカシ先生が数学準備室の方を指しながら信じられない一言を放った。
「それまで暇?お茶でも飲んでく?」
「え……や、あの悪いです、そんな」
「いーのいーの、気にしないで」
言われるがままに先生の後について数学準備室の入口まで辿り着く。先生がドアを開ける前にそういえば、と言った。
「葵のチョコ、美味しかったよ」
「!あ……よ、良かった」
まさかそんな一言をもらえるなんて思っていなくて、顔に熱が籠る。するとぽんぽん、と頭を撫でられ、一番美味しかったなーなんて言われる。思わず期待してしまうけど、私はただの生徒の一人。
「ありがとう、ございます」
先生が入れてくれたココアは温かくて、緊張がほぐれてほっとした。
「どういたしまして。あ、そうそう葵」
「?」
「この部屋に入ったの、葵だけだから。みんなには内緒だーよ」
「!!」
その一言に、思わずせき込みそうになった。
先生、それってどういう意味ですか((自分がしなければいけない事も忘れて、ずっとここにいたいと思ってしまったのは私だけの秘密))20110301
確かに恋だった
部室の鍵が見つかるまでは