だからぁ、分かってたの!もともと先生が、子供のあたしに興味なんてないことくらい。彼女いるの?て聞いてもいっつもあの笑顔ではぐらかしておいて。そのくせ期待させるようなことしておいて、……ほんとだってば!少しでも期待したあたしが馬鹿みたいだよね。まさかよりによって、綺麗な女の人とホテル街を歩いてるところを目撃するなんて、運が悪すぎる。いや、いっそのこと運が良いっていうのかな、はは……


ここまで一息に言ったあたしは、冷蔵庫にあった梅酒ソーダをがぶ飲みする。

「未成年だろ」

可哀相に、あたしの愚痴をずっと聞いてくれているシカマルが、呆れたようにそう言った。

「いーの!お母さんも今から酒は慣れとけって言うから」

大学行ってから、飲み会とか多いだろうし。それに気分はむしゃくしゃしてるし、なんだっていいや。
大学、か。大学と言えば受験。そして……

「あぁもう明日から予備校行きたくないよ……」
「……」

あたしが恋していたのは、予備校の先生だった。
シカマルも一緒だったから、この恋心も知っていて。そして夜、帰る途中で先生を見かけたあたし達。完全に固まってしまったあたしを見兼ねて、シカマルは家まで送ってくれた。そして愚痴を聞かされているという始末。悪いと思うけど、本当に有り難い。

「はぁ……」

駄目だ、気を抜いたらすぐに視界が滲む。
やっぱり、やっぱり好きだったなあ。

「シカマル、ほんとにごめんね……ありがとう。もう遅いのに」

「お前こそ親は?」

「共働きで二人とも遅いよ」

だから、存分に一人で泣けるや。

そう言ったところで、目の前が真っ黒になった。そして体に感じる温もり。

「……へ。シカマル?」

「あーもう、泣くなら今ここで泣けよ馬鹿葵。気が済むまでいてやる」

「……っうっうわぁぁぁ!」

その言葉に、もう堪えることが出来なくなり、子供みたいに大声で泣くあたしの涙を、シカマルは拭ってくれた。この優しさに逃げたくなる。

あたしだって鈍くはない。

……シカマルの気持ちを薄々知っていながら。あたしはなんてずるい女なんだろう。

そう分かっていながらも、シカマルの胸を借りて泣き続けるあたしはやっぱり最低だと思った。



こいつがあの男のために涙を流すことをやめるなら、俺の気持ちを利用されても構わないと思うなんて、自分は馬鹿な男だ


20110707
title by cuscus





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