05
「あ……な、なんでもない」
妙な考えが頭を巡る。
(カカシさんだけじゃなくて……昨日会ったみんなや里の人達が、私のことを……
過去の「三木葵」としてしか見ていなかったら?)
もちろん、今の「私」のことを見てくれているし、話だって聞いてくれている。
だけど所詮私は同じ人間でありながら違うようなもの。記憶もないし、自分がどんな存在だったのか、何も分かっていない。
おまけに忍術だって忘れていて、足手まといな存在なだけかもしれない。シカマルだって、傷つけたんだから。
……急に怖くなってきた
私って、何なんだろう。どうしてみんな優しくしてくれるんだろう。もし、必要とされていなかったら……みんなが本当は、笑顔の裏で私のことなんてどうでも良いって思ってたら……?
(……っ!)
まずい、久しぶりにこの頭痛が……一人で深く考えすぎたからだ。
「葵、顔色が悪い……まだ具合悪いんじゃないのか?」
「違う……」
必死でそう言いながらも、胸の奥のほうがぎゅうっと締め付けられるように痛かった。もしもこの優しさが……結局「私」が知らない「私」に向けられたものでしかなかったら……
どうしよう。どうしよう……!
そのとき強く体を抱きしめられた。上手く息が出来なくて激しかった鼓動が、少しずつだが落ち着いていく。
「安心しろ……大丈夫だ。俺が、いるから」
「はぁっはあ……」
「!」
行き場がなくならないように、ぎゅっと強く目の前にいるカカシさんを抱きしめ返した。怖い、この温もりが嘘だったら……そう思ってしまうのも怖い。
「行かないで、お願い……一人にしちゃやだよ……」
「心配するな、誰も一人にしやしなーいよ。
ほら、まだ万全じゃないならちゃんと休んで」
――こんな時なのに、数日前にうちはイタチに言われた言葉が頭から離れない……だなんて。
優しく背中を擦ってくれたり、頭を撫でたりしてくれるカカシさんに、口が裂けても言えるわけがなかった。
20110321
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