03

少しずつ痛みが和らいできたと同時に、ゆっくりと顔を上げる。
まず目に飛び込んできたのは、真っ赤で何やら模様のようなものが入ったその人の目だった。

(……!!)

考えるよりも先に体が反応して、私はぎゅっと目をつむった。すると、いきなり体を襲った浮遊感。

(今度は何!?)

あわてて閉じていた目をあけると、そこにいたのは銀髪に黒い口布を当てた男の人。この人の左目も、さっきの人と同じような目をしていた。


ドクン


(……あれ)

なんか、私、この人知ってる?

そんなのんきなことを考えていられるのも最初だけだった。なぜなら、その人が何やら手を動かすと、クラス中の皆が眠ってしまったからだ。

「ちょっ……な、何したの……!」

ようやく振り絞るように出した震えた声。だけどその人はちょっと困ったような顔をしただけだった。

「大丈夫、被害を受けないように眠っただけだから。
それから……葵はやらないよ。木ノ葉に連れて帰るから」

「……逃がすな」

「っひゃあ!?」


次の瞬間、周りの景色のスピードが目まぐるしく移動し始めた。抱きかかえられたまま走ってるんだ、と認識したその瞬間にその速さに思わず吐きそうになった。

「ちょ、よ、酔う!!吐く!!下ろしてよ!!てかあんた誰よ!!」

恐ろしい風圧を感じながら(こんな顔友達に見せられない)、必死に叫ぶ。

「ちょ、叫ぶな!居場所がバレるから!」

そう言うあんたの声だってデカいくせに、と一瞬思ったけど、ぐっと我慢する。

「っう……!」

「!!血が……」

鮫みたいな人が持っていた大きな刀が垣間見えて、思わず身が凍った。

「このくらいなんてことないっ……それより掴まれ、今ならいける!」

「……!!」
何がなんだかわからなかったけど、とりあえずまだ死にたくない。
思いっきりその人にぎゅっとしがみつくと、温かい光を感じた。

(眩し……!!)

その眩しさに目なんて開けていられない。次の瞬間にまたぐるぐると視界が回りだす。だけどさっきとは何かが違う、落ちていっているような……


(……一体、何だっていうの……)


普通に学校に行って、テスト受けて。また部活も始まって、いっぱい練習して。
――――文句こそ言ってたけど、そんな毎日で満足してたのにな。

意識が飛んでいく直前に見えたのは、家族と友達の顔。うわ、これがほんとの走馬灯ってやつか。
なんて意外と頭は冷静なまま、ゆっくりと暗闇の中に落ちていった。


20110228


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