03
その日、食料が必要だったので買い物に出かけた。こんな小さい子がどうして買い物なんか、といった変な視線で見られる。だけど、大人達がそれ以外の事で私を見ていることにもとっくに気付いていた。
「あの子よね…?」
「行くぞ、関わるな」
私が何をしたっていうんだろう。
でも、時々ある事を思い出す。
人がいっぱい走って、悲鳴を上げて逃げ回っている。私はなんだか体が痛くてたまらなかった。
そう昔の事じゃない。その時以来だった、大人達の目が気になるようになったのは。私は他の子供とは違うのかな。
「聞いて!今日分身の術を習ったんだ!」
「すごいじゃないの、またお母さんにも見せてね」
「うん!」
横を通る、同い年くらいの男の子とお母さん。
分身の術なら私だっていっぱい練習したからとっくに出来る。
そのはずなのに、涙が出て来た。
「う……ひっくっ…」
道端にうずくまる。きっとこんなところで子供が一人泣いていたって、お母さんは来てくれないんだ。
「どうして泣いているの?」
「……?」
知らない人に声をかけられたのは初めてで、少しびくっとした。見上げるとそこにいたのは、黒髪の男の子。
「一人ぼっち、なの……お母さんもお父さんも、いない。なんでわたしには、家族がいないのかなあ……」
「一人じゃない。ほら」
「……え?」
どうして良いか分からずに、差し伸ばされた手を見る。
「おいで。今日から俺は君のお兄ちゃんだよ。名前は?」
(……!)
その言葉が嬉しくて、手を伸ばす。
「……葵。三木葵。お兄ちゃんは?」
「――イタチ。うちはイタチだよ」
「ふふ……可愛い名前なんだね、お兄ちゃん」
後から知ったら、イタチは私の一つ上なだけだった。だけど、年齢の割に落ち着いて見えた彼はずっと年上のような気がした。
20110518
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