>> かばん

誰か教科準備室の掃除を手伝ってくれないか。という先生の問いに思わず手を挙げた。サクラに「あんたよくそんなの引き受けたわね」なんて苦笑を向けられたけど、私にはそんなの関係ない。
大して中身の入ってない鞄を抱えて準備室の扉を開けば、ダンボールの山からひょっこりと私の想い人が姿を現した。


「カカシ先生、お手伝いに参りましたー」
「悪いね。一人じゃなかなか片付かなくてな」
「いーえ」


邪魔にならなそうな場所に鞄を置き腕を捲ると、すきま風が肌に染みた。
どうすべきかキョロキョロしてると彼の手が私に伸び、その手にはマスクが乗せられていた。


「使う?」
「んー…大丈夫。ファンデ取れちゃうし」
「はは、女の子は大変だね」


そう言ってマスクをしまう彼の手に触れられたいのは本当は私だなんて言えないけど。言えないけど言いたいような、でもやっぱり言いたくないような。
埃臭さを取り除くために窓を開ける。既に帰路を辿る皆を見たら、何となく優越感に浸れた。


「ん?何これ、」
「うん?」


ひらりひらり、風に靡かれ次々めくられるそれはアルバムみたいだ。
何となく察したのか彼はそれを開いて苦笑を浮かべた。


「ああ、教育実習生だった頃の写真だね」
「え、見たい!」
「だーめ」
「えー!いいじゃーん!」
「…じゃあしっかり片づけが終わったらね」


手伝ってるだけありがたいと思ってよ!喉元まであがってきた言葉を飲み込み「わかった」とだけ告げれば「よろしく」と彼の手が私の頭に乗っかった。彼の得意技だ(もっとも、そう思ってるのは私だけだろうけど)。



黙々と書類を広げたりしまったり、時には捨てたり。みるみるうちに部屋は綺麗になるがそれとともに空もみるみるうちに暗くなった。オレンジ色の太陽が教室に射し込む。あ、こんな風景ドラマで見たことある。って、少しだけにやけた。


「よし…こんなもんかな」
「終わり?」
「ん、助かったよ」
「じゃあはい、見せて?」


帰り支度を済ませようとする彼の前に手を伸ばせば、参ったなという表情をして彼はさっきのアルバムに手をかけた。


「あんまり見せたくないなぁ」
「約束だもん」
「そうだね」
「あ…ははっ、これ先生?」
「そ、」「へぇー」


写真と先生、交互に見たら彼は頬を紅く染めて背を向けた。別に恥ずかしがる必要ないのに。だって先生、全然変わってないよ?今も変わらず格好良くて。
やっぱり私、先生が好き。


「ねぇ、カカシ先生」

「ん?ほら、鞄持って。帰ろうか」


せっかちな言葉が空を舞おうとしたとき、鞄を手渡そうとする彼の手が私の手に触れた。それだけでドキドキドキドキ。心臓が幸せな音色を奏でていて。
そんな小さなことでも幸せな私には、今まさに彼に言おうとした言葉は少し早すぎる気がして誤魔化すように微笑んだ。

まだ彼の温もりの残る鞄を肩にさげて教室を出たら、綺麗で温かいオレンジ色が一面に広がる。綺麗だねって言えばそうだねって返してくれて。
二人っきりの秘密が出来たみたいな、そんな感覚。


「そういえばさっき、何か言い掛けた?」
「あー…あのね、」


先生。私、


「……ご褒美にジュース奢って?」


先生がすき。


「まったく…みんなには内緒だよ?」
「やった!」


だけど今は今が幸せだから、言わないでおくね。
かばん



かばん/aiko
Thank you for the great music!



サイト名:Gigi
kai様より頂きました……!!
曲とイメージがぴったりですごくすごく大好きな作品です!
ありがとうございました。一周年おめでとうございます!

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