創造グループ | ナノ


▽ 憎たらしいくらいに


「退け!!!」
「っ!!!!」

油断していたルクリシアを蹴り飛ばす。ルクリシアが吹き飛んだことを確認し、傷だらけの憂を支える。

「憂無事か!」
「幻影、痛いよっ……」

傷は多いがどれも浅い。苦笑いをする憂を見て一息ついた。

「この世界の主はお前か? これほど安定した世界を作るとはなかなかだ」

あっさり入って来た、あんたが言っても皮肉だと思うんだが……。憂に状況を軽く説明しながら思った。

「お前は……王のひどり、反転か……」
「ああ、そうだ。さて、お前はなぜ憂を狙った? 答えてもらおうか」
「……おれの願いを叶えてもらう。おまえでは叶えることができない゛から小さな光に叶えてもらう。それだけだ」

さっきも言っていたがこいつは何を言ってるんだ。憂に願いを叶えてもらうだとか……

「ふむ。なるほど」

いや、納得するのかよ。

「反転。納得してないで____」
「はぁーいちゅうもーく」

間の抜けた声とぱちんと手を合わせる音にその場の全員が顔を向ける。長い藤色の髪を結わえた細身の少年。いつの間にか現れた少年は俺たちの間に入り、ルクリシアの方へ体を向ける。

「アワリティア……お前どこから入ってきた」
「どこからでもいいでしょ? それより、君さ、焦りすぎだよ? 余計なことを口走ってない?」
「うるさい」

会話から察するに二人は知り合いのようだ。

「話をしている最中に悪いがお前は何者だ? その男の友達か?」
「僕はアワリティア。こちらのルクリシアとは、まあ、お友達ということで」
「お前も憂を狙っているのか?」
「いいえ。僕はルクリシアを迎えに来ただけですよー。ね、ルクリシア、今日は諦めて帰ろう? ……聞かれたくない人もいることだし」

アワリティアと名乗った男は流し目で俺達を見回す。いや、正確には俺を見ていた。

「逃げる気か!」
「そうですよ〜それじゃあ失礼しますね〜」

パチンと指が鳴らした瞬間、まるで照明を消したかのように辺りは暗闇に包まれた。俺の目でも認識ができないほどの暗闇。何が起こるかわからない。とっさに憂を守るように抱き込み、耳を立てる。
やがて暗闇が晴れたかと思うと、辺りは白銀の世界に変わっていた。俺が置いていったナイフが転がっている。

「ここは元の世界、か」
「そのようだな。空間の境目もない。うまく逃げたものだ。もうここにはいない」
「うーいたた……さっきの人たちなんだったんだろう。願いを叶えたいって言っていたけど」
「わからないな。ただ、反転」

あんたは全部知っているんだろう。疑うように目線を投げる。俺の意図を察した反転は軽くうなづいた。

「幻影、憂。そんな顔をするな。あの男が言っていたことで私に聞きたいことがあるのだろう。いずれ話す」
「……了解した」

色々と言いたいこともあるがやめた。これ以上聞いても無駄だ。今聞いても答えてくれないことは長い付き合いでわかっているからだ。反転が話すまで待つしかない。

「さあ城に戻ろう。皆が待っている。今日は特別の日だからな急ごう」

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