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▽ プロローグ_それでも私は願う


古城の庭に人の姿をした化物が横たわっていた。季節構わず庭一面に咲き誇る花の絨毯。化物はここが好きだった。しかし、色とりどりの美しい花は今、化物から溢れ出る赤で染まり、止まることなく辺りを濁らす。

「……傷の治りが遅い。私も死ぬのか……」

自らの傷の深さを確認し、化物は呟いた。受けた傷など常人をはるかに超える速さで再生できる。だが永く生きすぎたせいか、ご自慢の再生力は著しく低下していた。死とは無縁だった自分に本当の限界がきていたのだ。悠長に構えていられるのは痛覚がないからだろう。こういった時ほど自分に痛覚がないことに有り難みを感じる。もしも痛覚があればそれは想像することも恐ろしいほど、苦しくて辛いのだろう。
やっとだ。やっと、私は死ぬ。私がいなくてもこの世界を保てるか、少々不安だが今の憂なら大丈夫だ。まだ未熟だが、仲間がいる。
……ああ、でも。最後まで私の願いは叶わなかったなとそっと目を伏せ、終わりを受け入れた。そのとき誰かが囁いた。

『本当にそれで良いのか?』

いつの間にか私の視界は濃い闇で囲まれていた。聞き覚えのある、脳裏にしみ込むような暗く澱んだ声が私に話しかけている。

「…………誰だ」

少しづつこちらへとにじり寄る何かに目線だけを向けた。どうせ死ぬというのなら静かに逝きたいものだ。闇から這い出たものは蛇のように見えた。

『聞かなくてもわかってるだろ? 私はお前だ』
「………………」
『私はこの世界の為にみんなの為に願いを叶え続けた。なのに私の願いは叶わない。どんなに願っても。毎日願い続けても。可笑しいとは思わないか? 』

黒と白の二匹の蛇は眼前にまで躙り寄る。なるほど 『お前』 はこのようにして人の弱みにつけ込み陥れてきたのか。私はありったけの敵意と軽蔑の目を向けた。

「何をほざく。私利私欲に願いを叶えないからこその私だ。だから父は私にこの力を与えた。お前が私から抜け落ちたものなら、その程度のこと理解しているだろう」
『ああ、そうさ。だが、いつまでも父の言いつけを守る必要はないだろう? 自分を偽って見ないフリをするのは楽しいか? 妹の願いを叶えてはお守りをするのがそんなに楽しいか?』
「くどい。何が言いたい」
『お前の願いを知るのは私だけ。その願い、叶えようか? 』
「断る。私の役目は終わった。今更蒸し返すつもりもない」
『ははは! それでこそ俺が愛する反転の王だ!』

暗闇の中から人の姿が浮かび上がる。
プレジール。快楽と嘲笑の悪魔。私から抜け落ちた感情。私が生み出してしまった悪魔。

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