「サソリ、起きて」
「ん…」

例えば、いつも会うたびに憎まれ口を叩いて、自分を足蹴にするような小悪魔だったとしても。
例えば、仕事に追われている自分を目の端に捉えておきながら、手伝ってくれなかったとしても。

「さんだいめ…」

全てを無かったことに出来るほどに可愛いのが、私の恋人。



そして今夜、歴代最強の名を欲しいままにした風影である私が理性と本能の板挟みに遭うのは、避けて通れない運命である。








常より倍は山積みにされた書類と格闘すること約2時間半。いつもなら補佐官と手分けして片付けていただろうに、頼りにしていた彼は体調を崩して自宅休養中。酷使してしまったかな、なんて今更反省したところで後の祭りだったりする。

週末ということもあってか、集中力が切れ始めるのが早い。明日は久しぶりに羽が伸ばせそうなのだ。早く仕事を片付けねば、明日に持ち越すことになる。
そうは思うも、私は書類と書類の間に突っ伏し、明日についてあれこれと思惑する。こんなことをしてるくらいなら、サソリに会いたい。そういえば、私が明日休みだということをサソリは知っているだろうか。伝えていなかったような気もする。何せ、サソリに最後に会ったのは、まともに会話したのは……。

「はああ…」
「おい」
「!」
「仕事サボってんなよ、風影様」

願わくば今すぐ会いたいと何度も思ったせいなのか、それとも彼の声が聞こえる私はもう末期なのか。そんなことを思いながら勢いよく体を起こすと、デスクの前には愛しのサソリの姿があるではないか。

「気配を消して近付くなよ…」
「風影と言えど、お疲れだと気が付かないか?」

サソリは愉快そうにくつくつ笑った。私を驚かせたのが嬉しいらしい。その姿に頬がゆるむ。
サソリはデスクにある書類の山に目をやり、それから私に視線を戻した。

「補佐官はどうした」
「体調を崩したらしい…」
「アンタが酷使してるからじゃねえの?」
「痛いことを言ってくれるな」

サソリは鼻で笑ってから、ソファに座った。

「なんだ、手伝ってくれないのか?」
「風影様のお手伝いをオレがするなんて、滅相もありません」

お役に立てず申し訳ありません。わざとらしく言うと、サソリはソファに寝転がった。

「この部屋、快適」
「そうか?」
「んー、寝そう」

サソリがチラリと目線だけ動かして私を見た。

「寝ても構わないよ」
「仕事終わったら起こして」
「ああ」








「よし、と」

ようやく仕事を終える頃には、窓の外はすっかり暗闇に包まれていた。サソリを起こさねば、と私は立ち上がり、一度伸びをしてからソファに近付いた。

「サソリ、起きて」
「…ん」

声を掛けるもサソリは眉を寄せただけで起きようとしない。
寝起きがよろしくないのは、朝も夜も関係ないらしい。

「サソリ、家まで送っていくから」
「んー」

サソリはゆっくりと目を開け、2,3度瞬くと、ソファの横にしゃがみ込んでいた私に無言で両腕を伸ばした。

「…抱っこ?」

サソリは小さく頷いた。
きっと意識が覚醒しきっていないのだろう、その目は未だ眠気を帯びている。
私はサソリの頭を撫でて、ご所望通りに抱き上げた。サソリの両腕が首に絡まる。

「…さんだいめ」
「なんだ?」
「かえりたくない」

不意打ちの上目遣いにやられる。

「いっしょに、ねたい」

ぎゅうとくっつかれ、私の拍動は一段と早まった。ばくばく、心臓がうるさい。
サソリは寝呆けているのだろうか、それとも何か、策略なのだろうか、それとも…?

「…だめ?」
「…良いよ」

サソリは微かに口角を上げ、再び腕の中で眠りだした。

「……」

どうしよう。
今夜、理性が持つか分からない。








彼、確信犯也
(気づけよ、ばーか!)






フリーとのことで頂いてきました!
最っっ高ですほんと!!
優さまのツンデレ旦那ほんとたまらないです…!
素敵な萌え小説をありがとうございました!





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