驚いた。目の前に大きな亀裂というか裂け目が、森の中にぽっかりと。これが噂の反転世界とやらの入り口なのか?と好奇心に駆られて覗き込むと「待ちな」と何処からか声が聞こえた。裂け目から顔を離し辺りを見渡す。誰もいない。

その声は裂け目の向こう側からだった。声からして"彼"と呼ぶべきだろう。彼はペラペラと訊いてもいないことを勝手に話す。要約すると、これは私のいる世界と向こう側の世界との裂け目であり、常識の通用しない場所とのこと。彼は反転世界と一緒にするとギラティナに怒られちゃう、と何故か嬉しそうに言った。

私は裂け目の近くにいるだけで、彼に随分詳しくなった。兄弟、住んでいる場所、趣味、好み、時々何を言っているかわからなくなるが、私はうんうんと頷きながら彼に付き合った。たった数時間の出来事だったのに、彼とは長い付き合いだったのではと錯覚させられた程だ。

「僕は死ぬんだ」本当に突然そんなことを言うものだから「聞いてくれてありがと」そういやずっと一方的だったなと「君と話せてよかったよ」なんてずるい奴だと「さようなら」最後の最後に裏切られた気分。私は初めて自分から声を出した。


「待って」


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