病み そんなにすごくないけど流血表現 大丈夫な方は下へ 俺の戦友、坂本辰馬はいつどんな時も馬鹿みたいに笑った。 勿論例外もある。 己の率いる軍を動かす時には頭としての自覚からなのだろうか、鬼のような恐ろしい表情で声を張り上げていた。 しかしその場の敵軍を殲滅した時には大きな声で笑う、そのまま地面で笑い転げそうな勢いで。 戦場で初めて出会いその姿を見た時、こいつは気でも狂っているのかと思った。 が、その後仲間と普通に言葉を交わす様子をみるとどうもそうではないらしい。 勝利の祝い酒の席でずっとそんな事を考えていたらいつの間にかお開きの時間になっていた。 自室に戻り布団に入り仮眠をとろうとしたがどうも寝付く事ができず起き上がる。 そのままするりと布団から抜け出て部屋の襖に手を掛ける。 開けるとひんやりとした空気が流れ込み頬を撫でて流れていく。 部屋からでて冷たい廊下を風の入ってくる方向へ歩いていくと縁側があった。 月の見えるそこにゆっくりと腰を下ろし外を眺めるとそこには大きな月が煌々と輝き辺りを照らしていた。 どれくらいの時間こうしてぼんやりとしていたのだろうか。 そのぼんやりとした気持ちを崩して俺の心の中に入り込んできたのはあの男の笑い声、静寂を切り裂く大きな声。 「あっはははは! おんし意外とろまんちすとなんじゃのう!」 真後ろで大声を出され少し強張る身体。 「そんなんじゃねーよ。つーか明日だって早いんだからとっとと寝ろ」 「冷たいのう」 銀時の態度が気に食わなかったのか少し声のトーンが下がる。 銀時の横を通り目の前にどかっと腰を下ろし目を見て一言。 「……おんし、わしの事避けとるじゃろう」 バレていた。 いや、あからさまに無視したりしていたので何かしらの違和感をもたれてもおかしくはなかった。 言い逃れは出来そうもなかった。 だから本当のことを話して見ることにした。 「お前はどうしてああやって沢山の敵を斬って笑っていられんだよ」 俺の問いを聞くと坂本は小さなため息を一つする。 そしてこう答えた。 「なんだそげな事だったんかえ。そりゃあ、こんだけ笑っていれば感覚が麻痺してどんなことでもちゃんちゃらおかしいと思えるからじゃき。おんしも笑えばええ」 その答えを聞けば納得できるのかもしれない。 でも俺はどうしても納得いかない。 「その答えの割には全然お前の目は笑ってねーな」 「そりゃホントに楽しい事があって笑ってるわけじゃないからのう。声を上げて笑うのは簡単じゃがそこまでなりきるのはちと疲れるし・・・・・・」 そこで見せた困ったような笑顔に俺は初めてこいつの生気を感じた。 でも、気に食わない。笑いで全てねじ伏せようとするこの馬鹿の事が。 「ならその目、潰してやるよ」 「は?」 あぐらの姿勢から素早く立ち上がり坂本の体に張り手を食らわして体制を崩させる。 そのまま馬乗りのような状態になり腰に差したままにしていた刀を鞘から引き抜き坂本の目へと刃を向ける。 「何しゆうがか!おんし正気か!?」 「テメーこそ正気か?どうして自分が殺られそうな時にそんな生きた目ェすんだよ」 己に向けられた刃に注意は向けているがその目には確かに光が見えた。 「それはこの状況によってわしはまだ生きていると実感できているからかもしれんのう、とりあえずその物騒なもんしまわんか」 坂本の右手が向けられたた刃を掴む。 当然手は切れて赤い血が流れ落ち坂本の顔に零れ落ちる。 「おめーさん、相当イカれてんな」 「それはおんしも一緒じゃろう、白夜叉」 俺がおかしい? そんな筈はない、認めたくない。 それを認めてこの戦を続ければ俺はただの夜叉に成り果てるのではないか。 もしかしたらこいつの目は俺の心の奥底まで見透かしているのではないか。 人間でなくなる事への恐怖、焦り、全てを。 こいつを生かしておいたら何かバラされるかもしれない、そんな気持ちが俺の心を支配する。 ……ここで消しておくべきか 「ハッ 確かにそうかもしれねぇ。でもお前さん程じゃあねえと思うぜ?」 「ぐっ…!」 坂本の手から無理矢理刀を引き抜けばやつの口からは呻き声がもれる。 そしてそのまま振り上げる。 降り下ろす事に少し躊躇、その間に坂本は声を掛けてくる。 「おんしはこげな風に笑えるわしが妬ましいんじゃな」 「……黙れ」 諭すような口調でこう続く。 「わしを殺しても何も変わらんぞ」 「うるせェ」 「それこそおんしは孤独な鬼に成り果てる」 「―――……っ」 返す言葉が出てこない、こいつは俺を俺より深く理解している。 抗う事さえ無断なのだろうか。 「わしもおんしと一緒、ひとつ間違えれば人とは言えない存在になるじゃろう」 自分をよく理解しどうすればいいか解っているこいつとどうしようもないと諦め怯えるだけの俺。 「どうして……なんでテメェはそれが解っていて恐くねーんだよ。なんで笑っていられるんだ、畜生」 振り上げたままだった刀は手から滑り落ちて後ろの床に音をたてて転がる。 涙は出ない。 強く唇を噛み締めふるふると身体を震わせる。 俯き、脱力し、そしてそのまま坂本に向かって倒れ込むと俺を抱き締めて起き上がる。 「独りぼっちは寂しかろう、痛かろう、冷たかろう。そして何より……こわかろう? 」 坂本の血に塗れた二人。 明日も戦場で同じように朱色の花を咲かすのだろう。 ――――――――――――――――――――― 20120302 久しぶりです 坂本さんのサングラスの下の目が冷たかったらっていう妄想から生まれました 実際はそんなことないと思うけど あずま ←→ |