「…――っ。」


不意に走る痛みに思わず胸を押さえる。




おかしいな、もうあれから一年近く経ったはずなのに時々痛む傷。




真選組が混乱に陥り、伊東の企みを知りそれを副長に報告しなくてはと走っている時に刺された。
人斬り河上万斉にだ。



もうすっかり塞がっているわけだが、疼くような痛みが時々襲ってくる。



「風呂入って気分転換でもするかね。」





時間は遅くもう他の隊士達の姿は見受けられなかった。


服を脱いで傷跡を見る。
塞がったとはいえ、一度体を貫かれていてまだくっきりと残っている。



ぐっ、と少し力を込めて押すと電流のように痛みが走った。




浴室に入り手早く体や頭を洗い湯舟に浸かる。



やっぱり風呂は最高だ。
特に誰もいない浴室は広くていい。



ゆったりと浸かり体が芯まで温まり気分もいいので夜の散歩にでも行こうと考えた。




「明日は非番だしコンビニでジャンプ立ち読みして帰るか。」



普段着を着て屯所を出る。少し肌寒いと感じる風が心地好い。



コンビニまでの近道のために路地に入ると怪しい集団を見つけた。



あの後ろ姿、もしかして高杉の一味?

まだ気づかれていないようなので少し後をつける事にした。





(何かの取引の最中…?)



取引相手が丁度陰に隠れてしまう位置にいる。
ここで相手を確認すれば少し捜査が進むかもしれない。




じりじりと前に進みもう少しで見えそうというところで一人がつぶやいた。








「…誰かが後ろで見てるでござるな。」




あれは…河上か!

さすがにこれはまずい、引き返そう。




踵を返し全力で走る事に集中する。



一瞬、影のような物が自分の横を通り過ぎたような気がした。



バッと前を見るとあの時と同じように万斉が前に立っていた。



あの時、刺された時の光景がフラッシュバックする。


今日こそやられる!



しかし万斉は刀は抜いたものの俺の方に向かってきたのは奴の左手だった。




「がはっ…!」



俺の首を掴みそのまま地面へとたたき付ける。



「ふむ、やっぱりいつぞやの。非番でもお仕事とはご苦労さんでござる。」




ぎりぎりと手に力が入り段々と意識が遠退くのを感じる。



「ぬしの歌、あの時のような歌がもう一度聞きたい。
しかし今はその時ではない。
今日の事はお互い忘れて次に備えようではないか。それに」



刀をしまい右手で俺の着流しに手をかけ、ばっと開く。



左胸の傷が見えるくらい開くとそれを撫でる。



意識が朦朧としていて、首にかかる手が外れていることにしばらく気づいていなかった。



すこし安堵する。

しかしそれもつかの間、傷を撫でていた万斉の手がいきなり爪を立てて強く押してきた。



「っああああ!」



痛みを我慢できずに声を上げ、目には涙が浮かぶ。



「この傷痕が残っている限りぬしは決して逃げられないでござるよ。また近いうちに会おう。」



そのまま万斉は暗がりに消えていった。



胸を押さえながらまた必ず訪れるであろう恐怖に身を震わせる事しかできなかった。














―――――――――――

初万山
所によっては斉山と表記してるけど万山で。
この二人もラブラブというよりは痛い(?)お話が好きです

それか敵同士だから結ばれない…みたいな。
万山も増えてほしい!



20111023
あずま




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