||| plus alpha モネが可愛すぎて辛い 綺麗な人だと褒められた。 社交辞令や世辞の類だろうと笑って受け流した。 話をするととても聡明であると褒められた。 私なんてまだまだだろうと言って見せた。 声が美しいと言われた。美しい手をしていると。美しい足だと。 頬が熱くなるのは、恥ずかしいと感じるのは、ただ褒められ慣れていないからで。 褒め言葉が嬉しいというだけに、決まっている。不特定多数の人間がそうだというように、私も。 ただそれだけの事だ。 きっとあの人は数か月もすれば私のことなど忘れてしまうに決まっている。 私の名前も声も姿形も全て。 ああ、そうだろうな。だってまた会えると決まってる訳でもないし。 いやいや別に、会いたい訳ではないしそんなこと望んでいないし、だから、別に。 しばらく時間が経った。 きっとあの人が私を忘れてしまったに違いないであろう時間が。 けれど私はあの人の声も名前も姿形言動行動癖の全てを忘れられないでいる。 綺麗な顔立ちに聡明であり美しい声をしていたのはあの人だ。 きっと、自分の姿を見たことないんだわ。鏡の存在を知らないんだろうか。 もし知らないんだとしたら初めて鏡を見たときどんな反応をするんだろう。 驚くだろうなぁ、なんて考えると微笑ましく思えた。 ねぇ、私はまだ貴方の事を忘れられないでいる、のに 空いた胸がずきりと衝撃をくらう。 ああ、そうか、そうだった。私の心臓はあの男が持ってるんだった。 ああ、そうだったそうだった。忘れてたけど、それもそうか。誰だって敵の心臓握っていれば潰したりもするだろう。 ちょっとタイミングが悪かっただけだ。後数秒、待ってくれたって良かったのに。 薄れゆく意識の中で、言うことをきかなくなる体で、最期の瞬間、誰の事を考えていたかなんて、そんなことはもう聞かないでくれ。 誰も聞いてなんてくれないんでしょうけど。 「ああ、なぁ、そうだ。ふと、思い出したのだけど」 懐かしい本を片手に口を開く。 幼い頃に読んだことのあるその物語をとても酷い内容であると今、知った。 私が声をかけた相手もまた本を手にしている訳で気の抜けた返事をしてくる。 別に大した用でもないのでさしてその態度にも気を留めず言葉を続けた。 「モネって女がいただろう」 再び本に視線を落とすとヒロインの女が悪魔の子を産んだところだった。 どこで悪魔の子を孕んだのかといった話になっていく訳だがひどい話だと思う。 「綺麗な人だったなぁ」 きっと誰にも届かない言葉 Jun 07, 2014 20:21 browser-back please. |