||| plus alpha

紅覇とマグノシュタットに来たのは私が魔法使いだからだ
魔法使いがいれば話も円満に進むのでは、という理由ではあったがそんな単純なことではなく、話し合いはあまりいい方向には進んでいない

「(それは、そうだわ)」
自分たちがどういう境遇に置かれるかろくな説明もなく私たちの下へつけなどと言われても
まして煌帝国は侵略戦争や貿易でだってあくどいことをしているのは有名なのだから

このままいつまで粘ってもいい答えは得られそうにないだろう
でも煌に戻ればマグノシュタットへ侵攻するに決まっている

どうすればいいのかなんてわからない
お姉様やお兄様は私なんかよりもっともっと色々なこと考えていると思う
ただそれを正しいと心から言えない私も確かに、いる

そしてその思いは益々、強くなる訳だ

モガメットさんと話をした
挨拶と他愛のない話をした
もし良かったら護衛をつけるから街を見ておいで、と言われた
いい人、だった

街は活気に溢れていた
護衛にとつけられた魔法使いに頭を下げる姿はちょっと引っかかったけれど普通の街だった
幼い赤ん坊を抱く母親や笑いあって本を読む姉妹を見て私たちは本当にこの国に侵攻するのだろうかと思った
ただ普通に暮らしている彼らの幸せを壊しに、本当にここまで来るんだろうか

「間違っているのかしら」
私の従者は眉を下げて困った顔をしていた
困らせてしまったと、思った

護衛の人と話している中でひしひしと伝わったのは魔法使い以外を差別しているという事だった
私が煌帝国の使者としてここにきている皇女だというのは別に隠されてはいない
色々と大変でしょうと言われた
魔法使い以外の人間と血の繋がりをもって、と
どういう意味かは聞かなかった
それよりも話の最中で地下に人が住んでいるということを示唆する内容が気になった

モガメットさんと再び話をした
街がいかに素晴らしかったかや嗜好品の類の話をした
装飾品のいくつかをお土産にしたいと語る私に彼はずっと笑顔だった
ふと昼間気になった話を彼にすると地下にも人がいるということがわかった
ただあまりにも彼がいい顔をしなかったのが気になった

五等許可区に来た
勿論モガメットさんの許可を得て護衛を連れた上でだ

「あんなの、間違ってるわ!」
声を荒げて傍にあった本を投げる

「どうしてあんなことが平気で出来るの?あれを見て何とも思わないの?」
すぐにでも心の内を勢い任せに諸悪の根源である彼にぶちまけてやりたかった
ただ従者に半ば強引に連れられて椅子にどさりと腰掛ける

「私は、あちら側だった」
彼らの目がひどく痛々しかったのを思い出す
何もかも諦めて仕方ないとこれが当然なのだと、何も知らないで、

どうして私だけ魔法使いなのだろうと思った
父や姉や兄と違うのだろうと
生まれてこなければと考えたことだって、あった

「あんなの、間違ってる…」
モガメットさんはどうしてあんなことができるんだろう
あんなに大勢の人を苦しめておきながらよく私に笑いかけられたものだ
同じ人間だなんて、思えない

「本当に間違ってますか?」
従者は膝をついて座った私を見上げてきた
真剣そうな表情だった彼はつとめたように明るい声を出した

「お話、した事なかったんですけれど…私、過去に弟を亡くしてるんです」
笑って話す内容などではなかったが、彼は笑ってた
ただその笑顔は歪んでいて、ああ、泣きそうなんだと気付いた

「その年か不作で、ろくに食べることができなくて、母が倒れて…」
ゆっくりゆっくりと俯く彼は絞り出すように声を出した

「本当に、本当に…どうしようもなくて妹を売ったことも、あるんです」
知らない過去だった
いつも傍にいた彼の聞いたことのない話

「私を鬼の子だと思うなら、それでもいいんです。ただ、家族で飢えることなく怯えることなく暮らす世界があった、なら…」
貴方だってそう思うでしょう、と彼が続けた

『いつか、この世界が一つになったら争いなんてなくなる』『誰も恨んだり悲しんだりなんてなくなる』『傷つけたり怯えたりそんな事もなくなって』


―そしたら皆で笑って暮らせるのかしら

ただ普通に家族と笑って過ごすことができたなら。
あの空間にはそれがあったんじゃないだろうか。

「でも、あんなの間違ってる…」
彼の顔は見れなかった

「私はもし叶うのであれば幼少の頃をあそこでやりなおしたいです」
ごめんなさい、と謝る彼の顔も、やっぱり見れなかった

すっかり勢いをなくした私は従者と別れた
そして何故か運悪くモガメットさんと顔を合わせてしまった訳だが

「同じ人間の所業とは、思えませんでした」
今日はどうだったかと笑顔で聞くものだから棘のある言葉をはいた
もしあそこにいるのが私の姉や兄、弟妹であったらと考えると…ぞっと、する

「同じ生き物ではないでしょう?」
何を言っているのかと思った
呆気にとられた私に彼は思い出したように手紙を渡してきた
一人で部屋で読むよう勧められる

本当はもっと何か言いたかったのに、言葉は声にならずに私は部屋に戻った

手紙は母親からだった
そういえばこの間モガメットさんに母親の話をちらとした気がする
手紙の内容は私を気遣うもので私を一人煌に置いていってしまった事を気にかけていた
ただこちらは危ないから連れてきたくても連れてこれなかった会いたい顔が見たいとそんな事が書かれていた

つまりは、だ
十数年前に幼い私を残して母は死んだ、訳ではなくマグノシュタット改めムスタシムに来ていたのだ
ただその数年後に母は亡くなって…こうして私がいつか読むかもしれないからと手紙を書いていた訳だ
母は最後に強く生きてくれと書いていた

思ってもいなかった人物からの手紙に胸が潰されるような思いに囚われる
母は、あの優しく美しく清らかであった母は、こんな国を望んでいたのだろうか
それとも実情は知らずにただ不遇を極めていた魔法使いが救われることを喜んでいただけだったのだろうか

…それよりも
モガメットさんは私の母の手紙を探してくれたのか
あんなちらと話しただけの私の為にほんの少しの情報を頼りに
何十万といる人の中から母のこと、母の手紙のことを、私に

先程は言いすぎてしまった、と思った

マグノシュタットと煌の話し合いは半ば強制的に終わった
父上が亡くなったそうだ

急いで煌へ戻り葬儀を終えた
少しばかり期待していたのだが予定通り煌はマグノシュタットに侵攻するらしい
その話を聞いて私はすぐに受け入れられなかった
わかっていたことなのに父上が亡くなったこともあり実行しないのではと期待したからだ

「…貴方は優しい子だものね」
俯いた私に姉が優しい声でそう言った
気遣うようにそっと肩に手が触れる

「大丈夫よ」
微笑んだ姉は私を安心させようと言葉を続ける

「私たちは必ず帰ってくるし、世界は一つになるんだもの」
―侵略によって?

「相手の手の内はわからないけれど…でも、絶対勝つわ」
多くの人を犠牲にして?
ただ家族と笑って暮らしている人たちに手をかけて?

その先に本当に平和があるの?


姉の声が遠ざかる
もやがかかって壁一枚隔てたような

違う、
違うのに、
声が出ない


「同じ生き物じゃないのはどちらかしらね」
ぽつりと呟いた声に従者が反応する

「煌は戦争をするって。たくさんの人を殺すんだって」
赤ん坊を抱いていた母親は子の成長を楽しみにしていることだろう
本を読んでいた姉妹はその続きが気になっているんだろう

それを全部壊そうとしている

「そんなの、間違ってるわ」


マルガかわいいですよねマルガ

Jan 29, 2014 17:58
browser-back please.

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -