ハリ男 | ナノ

いろいろ考えてみました。
俺がこの世界にハリー・ポッターとして成り代わったこと、そのことの意味、そして成り代わったことによる変化や影響について。
けれど、答えなんて出るはずもなく。

例えばこの現象を引き起こしたのが神様だとしよう。
児童文学の中に人間を突っ込むだなんて世界にとって全くプラスになると思えないことをしているから俺達の崇拝する神様とは概念が違うかもしれないが、便宜上神様ということにしておく。

さて、その神様の目的はなんだろうか。
俺から前世の記憶を奪っておいて、原作の知識だけは残しておいた。意図を感じずにはいられない。
なら、神様は俺に一体何を求めているのか。原作の未来を変えろとでも言っているのだろうか。…馬鹿らしいそれならば作者にでも違う未来の物語を書かせろって言うんだ。

…いけない。こんなこと、自分がハリー・ポッターの世界に居ると気が付いてから何回も考えたことなのに。怒るのにも疲れて、もうどうでもいいやと、なるようになればいいやとこの世界に抗うことを止めたっていうのに。
俺は、死にたくはない。別に死んでもいいか、と割り切れたりしない。だから原作に逆らおうとは思ってなかったんだ。逆らおうと思うほど、気力がなかったっていうのもあるんだけど。とりあえず、流されるままに生きてたら生きていられるかな、なんてそれくらいに思ってたんだよね。あの物語はたくさんの人が死んでしまうけど、でも俺は特別思い入れのある人だっていなかったし、結局は自分の身が大事だったんだ。“ハリー”は最後、素敵な奥さんと素敵な子供がいて、幸せに暮らしていたから。俺の未来がそうなら別にいいかって。これから先の未来について真剣に考えたくないとか、そういう思いもあったのかもしれないけど、面倒だから俺は目を閉じて夢の世界へ逃げてたんだ。

ねぇ、これって、自分の状況を真面目に受け止めたくないって思ってた俺へのあてつけですか?

何、“ハリー・ポッター”がスリザリン寮とか。笑えない。これで完全に物語は線路から外れたよね。…本当に、一体何が目的なんだか。もしかして、神様のことを仮定に考えている時点でこの考察は間違っているのかもしれないな。神様なんていないのかもしれない。全てただの偶然かもしれない。誰の意図も働いていないのかもしれない。
誰かの意図が働いていたとしても、していなかったとしても、俺の入った寮によって物語は大きく変わる。

ねぇ、それなら俺だって好きにしたっていいよね。

「ヘドウィグ」

早朝、地下のスリザリン寮を抜け出してふくろう小屋にやってきた俺は、眠っている他のふくろう達を起こさぬようそっと声を出した。
真っ白の毛を持つ彼女は、俺の呼び掛けに静かにやってきた。…若干遠いのは気にしない。そこは俺の腕とかに留まるんじゃないのとか思ってない、ちっとも。

「…あのね、ヘドウィグ。俺ね、決めたんだ。無理して原作のポッターになるのはやめようって」

今まで、無理してきたのかとか原作のハリーを真似てきたつもりなのかそれでとか聞かれたら困るんだけど、でも本当、俺は俺の思うように生きることにした。

「俺、本当は君を一目見たときから呼びたい名前があったんだ」

原作での君はヘドウィグと呼ばれていた。だからその名前をつけるべきだろうとこの名前で呼ぶことは諦めていたんだけど。

「“小雪”」

新雪のように白い、けれど小さな君にはお似合いの名前じゃないだろうか。
そっと伸ばしたその手に応えるように、音もなくヘドウィグ――小雪が俺の手の上に留まった。
それが信じられなくて、思わず固まってしまう。心臓が大きく跳ねる。

「…小雪って呼ばせてくれるの…?」

返事の代わりに、小雪は撫でようと伸ばした俺の指を軽く甘噛みした。

「っ!小雪!」

感激に震えながら小雪に抱きつく。ばさばさと小雪が抵抗するように羽ばたいているけど気にしない。
そうか、君は、俺がもっと他の名前が似合うのにと思いながらヘドウィグと、違う名で呼ぶのが気に食わなかったんだね。…動物ってすごい。正確に気持ちがわかっていた訳ではないだろうけど、でも勘付くことができるだなんて。

「小雪、これからよろしくね」

可愛い可愛い相棒と、やっと心通わすことができました。


(痛い痛い!ごめん、調子乗った!だから頭を突くのはやめてっ!)


121006


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -