ハリ男 | ナノ

「…ハリーって変わってるのね」

いえいえ、あなたもなかなか変わってらっしゃいますよ。
心の中で返事をする。
遡ることつい数十分前から、知的好奇心というまともそうに聞こえて実際何だそりゃな理由を原動力に、豊かな栗毛の少女が、俺の前の席へと座った。その少女の前歯が、ほんの少し大きいとくれば、原作知識のある方ならピンとくるだろう。そう、ハーマイオニー・グレンジャーその人である。
俺はというと、飛行訓練のあれこれの後、まだ頭が痛むというドラコを避けて図書室に来ていた。いや、看病しようとも思ったんだけどさ、やっぱ原因になったのは俺な訳だし?つい数時間前に渾身の力で頭ぶっ叩いておいて「ドラコ、大丈夫か?」っていうのも…、白々しいじゃない?
という訳で、看病はクラッブとゴイルに任せて俺は図書室で暇を潰していた。
復習がてら選んだ本に目を走らせていたのだけど、「ちょっといいかしら」と女の子の声が。最初は俺が持ってきていた魔法薬学の本についての質問。徐々に話は逸れていき魔法薬学に対しての認識から、魔法界への見解、果ては俺の生まれ育ちについてまで。
話し掛けられて無視はあまりにも態度が悪いだろうと、多少答えに困っても、何とか受け応えをしていたというのに突然これだ。
変わってるって…よく言われるけど失礼じゃない?
せめてもう少し親しくなってからそういうこと言おうよ。
とか思いつつも、それを口にするのもどうかと思うので、大人な俺は無難な答えを返すことにしました。

「…そう?」
「そうよ。噂では聞いてたけど、噂以上よ」
「そうでもないと思うけどなー…って噂?」

え、ハリー・ポッターは変人説が流れているということですか?

…何で!?
心当たり全くないんですけど!!

「貴方、自分がすごく注目される存在だっていう自覚ないの?だって、貴方はハリー・ポッターなのよ?」

名前を呼んではいけないあの人を追い払った伝説のハリー・ポッターってこと…?
それだけで…あ、でも確かに原作でもハリーが有名人すぎてイライラする描写あったかも…?
…つまり、そういうこと?

「貴方がスリザリンになって、スリザリン生以外の生徒は貴方にがっかりしたわ。おまけに、貴方がいつも一緒に居るのはドラコ・マルフォイとかの純血の名家の子ばかり」

ハーマイオニーの言葉から連想するとさ、何か俺、すっごく感じ悪いヤツになってない?気のせい?

「ハリー・ポッターは純血主義。…そういう憶測が飛び交ったわ。でもその割に貴方はグリフィンドールのロナルド・ウィーズリーとも交流があるようだし、マグル生まれの子とも普通に仲良くしてる」

まぁ、俺、純血主義じゃないからね。
ってか、一々純血かそうでないかを気にしている周りがすごくないか?だって、見た目普通の人間だよ?見た目だけで区別できないってことはわざわざ調査してまで純血かどうか確かめてるってことだよね?すっごい労力使ってるね、俺如きに。

「寮についても全く頓着していないみたいだし。…私、グリフィンドールなのよ?なのに、邪険にすることもなく顔色一つ眉一つ動かさないで普通に話してるし」

では、俺は君を無視しても良かったということですか…?
いや、それは人としてダメだろうよ。
もしホグワーツではそういうのも致し方ないという風潮があるなら、それは純血主義云々の前に倫理観がちゃんとなってないので道徳の時間を導入しましょう。

「人と話すときに、どの寮かっていうのはそんなに重要なことかな?」

俺の質問が予想外だったのか、ハーマイオニーのよく回る口が止まった。

「俺は、自分で見たものや聞いたものの方が信用できる人間だから、実際に話しもせずに馬が合う合わないって決めつけるのが嫌なだけだよ」

きょとんとしてるハーマイオニーが何だか可愛くて、小さく笑う。

「Ms.グレンジャーもそうなんじゃない?噂の真相を確かめようとして話し掛けてきたんだろう?…それで君の中で俺は好ましくない部類の人間ではなかったから…、俺の噂教えてくれたんだろう?」

ハーマイオニーは、自分の知識に基づいて正論を並べる。でも正論とは不思議なもので、完璧に近付けば近付くほど、他人を攻撃するものになる。鼻に掛けた気取ったとも取れる声で、正論を並べれば誤解されてもおかしくない。
それがきっと、彼女になかなか友達ができない理由なんだろう。

でも彼女は知識と同じだけの優しさも持ってる。
数十分、話しただけの俺にだってわかるのだから友達ができる日もそう遠くないだろう。

「ありがとう、心配してくれて」

ハーマイオニーのことを理解してくれる友達ができる日が、一日でも早ければいいのに。
勝手ながら、そう思った。


(……貴方、本当に変わってるのね)


140619


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