男主用短編 | ナノ

「名前

ヒソカの呼ぶ声がしたかと思うと後ろに引き寄せられる体にため息を吐く。
バンジーガムか。

「ヒソカ、用があるなら呼ぶだけでいいだろう。バンジーガムで引っ張るな」
「だって名前、仕事に集中し出したら何したって気付かないじゃないか
「だからって、念を使うな。念の無駄遣いだ」
「無駄なんかじゃないよむしろ有効活用

引っ張られるのに身を任せていたら、ヒソカの腕の中にいた。男の逞しい胸板に喜ぶ趣味はない。
胸に手を置くと、こちらの意図が伝わったのかヒソカの腕の力が弱まりどけられた。
それに満足してヒソカから離れる。

「残念
「で、用は?」
「ご飯、食べない?もうそろそろ食べないと、名前でも死んじゃうよ?」
「……もうそんなに経ったのか」

仕事をし出すと、食事という概念が俺の中から消える。
だから何食も食べないというのはざらである。
俺が死ぬとしたら餓死だろうと、何人もの人間に笑われてきた。俺自身もそうだと思う。
ヒソカは、仕事が一段落し俺の集中力が下がっている絶妙なときを見計らって声を掛けてくれる。
鼻をくすぐるいい香りに、空腹という感覚を思い出す。ヒソカがいなければ、俺はもっと早くに餓死という運命を辿っていただろう。

「美味しい」
「それはよかった

ぐーぐーと元気に空腹を訴える胃袋に促され口にした料理は、いつもの通り美味しかった。
嬉しそうに微笑むその顔も、いつもと同じ。

「俺はいい息子を持った」
「もー、またそんなこと言っていい恋人、でしょう?」
「あはは、面白いこと言うな。こんなおじさんの恋人になりたがるなんて、お前くらいだよ」

ミネルトローネの甘味と酸味が、優しく口の中に広がる。
体が、胃を中心にじんわりと温かくなる。

「名前、好きだよ」
「おー。ありがとう」
「10年前に言ったときもそう言ったよね。ありがとう、10年後にもう一度言ってくれたら考えてやってもいいぞって」
「そうか、もう10年経ったのか。早いなー…」

始めてヒソカと暮らし始めた頃のことは、昨日のことのように思い出せる。
子育ても仕事も、何もかも手探りで、年月なんか気にしている余裕がなかった。
目の前に座り、俺の表情を伺っているヒソカも、もう随分と立派な“男”だ。

「答えは?」
「何の?」
「好きだよ名前。好きで好きで大好きで気が狂いそうなくらい大好き。ボクと付き合ってくれませんか…ってちょっと、話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。いい子に育ってくれて嬉しいなーって思って」

妖艶に挑発的に、ヒソカの瞳は俺を誘う。
欲しいと、口よりも雄弁にその狂気じみた想いを訴える。

こんなに欲しいものがあっても、きちんと“待て”もできるようになってことが嬉しくて、頭を撫でて褒めてやりたいという欲を抑えることができなかった。

「…子供扱いしないでってば
「してないよ。ヒソカは偉いなーって褒めてるだけだ」
「………はぁー。もういいよ」

カチャカチャと片付けを始めたヒソカ。
からかったつもりはなかったし、子供扱いだってしてはないけどヒソカのおへそはすっかり曲がってしまったらしい。

「ヒソカ」

念の性質を変化させてなんちゃってバンジーガムをヒソカにくっつける。
そしてこちらを振り向かせると同時に鼻にキスをした。

「おじさん、もう何年も恋なんかしてないんだ。だからこれで勘弁しておくれ」

ヒソカの返事も聞かず、「ご馳走様でした」と言い残して俺は寝室へと引き返していった。
久し振りに食事した後は、数日振りに睡眠を取るのが俺の通例だ。

しかし、大人になった大人になったと思っていたけど、やっぱりヒソカはまだまだ可愛い俺の甥っ子だ。
顔へのキスだなんて、おやすみのチューで何度だってしたっていうのに。
きっと、それ以上の経験だって数多くしてきただろうに。

きょとんとした顔は、始めて俺と言葉を交わしたときそっくりで、俺はこみ上げる笑いを我慢することができなかった。


140411
某夢サイト管理人な友人とのオフ会お遊びゲーム企画B
指定:ヒソカ、恋愛したいのにキャラをずっと子供扱い、ハッピーエンド
…お客様の中でヒソカの変態成分をお見かけになった方は、客室乗務員までお知らせ願いします。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -