男主用短編 | ナノ

「どうした、何かあったか」

プリントにペンを走らせる音、時々プリントのめくれる音だけが響く。
青い空は夕暮れの時間が近付いているけれど、その気配が見えない。日が伸びてきたな、とどうでもいいことを考えるのはただの現実逃避。

「まみちゃん、また浮気したんだって」

ペンの音が一時途切れた。
けど日常は、こんな些細なことで乱されたりしない。
その証拠にペンの音はすぐに再開された。

「まだ別れてなかったのか」
「うん。だって、俺まみちゃんのこと好きだし」
「…そうか」
「うん。跡部だってそうでしょう?」

立場も状況も、何もかもが違うけど。
好きだから未だにやめられないっていう点では同じでしょう?

「悔しくないのか?」
「っ、…悔しいに、決まってんじゃん」

悔しくて悔しくて、憎いくらいだよ。
でも、好きなんだよ。
わかるだろう、跡部。

俺は、跡部はわかってくれているって思ってたよ。
だって、お前はこっち側だ。

「……俺も浮気しようかな」
「…は?」
「跡部、浮気しようぜ」
「あぁん?何言ってやがる…」

苦しいんだよ。
跡部が言ったんだよ、悔しくないのかって。
なら一緒に仕返しをしようよ。
大丈夫だよ、だって――…

「俺、女の子の中なら一番まみちゃんが好きだけど、男の中なら跡部が一番好きだから」

だから大丈夫。
俺の笑みに跡部の顔が引きつった。
立ち上がろうと音を立てた椅子を押さえ込んで逃げることを許さない。
もう片方で顎を掴み、上を向かせればあとは簡単。

柔らかな感触を、まみちゃんと重ねる。
脳内のまみちゃんとの口付けが深くなっていけばいくほど、現実の跡部との口付けも深く荒くなっていく。

俺は、まみちゃんとキスするときはいつも我慢していたんだよ。
俺の愛は、いつかまみちゃんを壊してしまうと思って。
触れたくて乱したくて汚したくて、でも壊れないように汚さないように触れた。
もしかしたら、そんな俺に満足できなくて他の男に走ってしまうのかもしれないと気付いたのは、三回目の浮気をされた後。

気がついたってどうしようもないのだから、意味はないのかもしれない。
俺ができることはきっと、一つしかない。

キスが終わったとき、まみちゃんは余韻の抜けぬとろんとした瞳で俺の瞼が上がるのを待った。
そして目が合えば、恥ずかしそうに視線を逸らす。
再び合った瞳が細くなっていき、はにかんだ笑みを浮かべるまみちゃんを見ると、愛おしさがこみ上げた。

だから今、俺が瞼を上げたとき目に入る景色は――

俺を睨む強く鋭いアイスブルーの瞳
 とろんとした瞳
柳眉の間に深く刻まれたシワ
 幸せそうな微笑み

あは、全然違うじゃん。
同じなのは、高揚した滑らかな頬だけ。

「あぁん?何か言ったかこの発情期。謝罪ならもっと大きな声で…っ」

唇を優しく撫でると、跡部は大人しくなった。

あぁ、そっか。何で気付かなかったんだろう。
まみちゃんなら壊れてしまうかもしれない。
あんなに細くて小さくてか弱い生き物だから。
でも、跡部なら?

「ねぇ跡部、俺達付き合おうか」
「は?」
「跡部も男の中なら俺が一番好きだろう」

お互い不毛なことはやめようか。
女の子の中で一番好きな子をどうしても諦めきれなくて苦しいんだったら、男の中での一番好きなヤツの存在を、その子よりも大きくしよう?

「俺、好きな子にはやさしいから安心して?」

あのとき、
涙目になりながら俺を睨みつける跡部に、確かに俺の心臓は跳ねたんだ。



もちろん、俺は即答する。

――あぁ、やっとまみちゃんと別れられそうだ。


140411
某夢サイト管理人な友人とのオフ会お遊びゲーム企画C
指定:跡部、好きな人は別、ハッピーエンド
るるる様から言葉お借りしました。
あぁぁぁぁ、ハッピーエンド要素薄くなってしまった。ギャグでもっと間抜けな夢主でもっとあっけらかんとハッピーエンドになる予定が…。



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