男主用短編 | ナノ

「雷蔵さんマジ天使」
「もふもふで天使とかマジ最強。何なの雷蔵さんは俺達殺す気なの?」
「萌え殺しですねわかります。でも俺、死ぬ最期の瞬間に雷蔵さん見れるんならそれでいい。我が生涯に一片の悔いなしって笑って死ねる」
「ちょ、お前抜け駆けするなし!そんなの私だってそうだっての!」
「……何話してるの二人共?」
「「ら、雷蔵…!」」

本当は話しかけたくなんかなかった。何も知らない振りして明日の実習に必要な道具を借りに用具委員会のところに行きたかった。でも、流石に死ぬだの殺すだの言いながら人の名前を連呼されては我関せずの態度を突き通すことはできない。って言うか、同級生達が僕に助けを求めるような縋りつく視線をさっきから送ってくるのだ。ここで見捨てたら絶対恨まれる。そんなある種緊迫した状況から二人の変態に話しかけた僕。一人は僕に話しかけられたことに目を丸くして驚いた後徐々に顔を青くさせていく。同室であり僕の顔を借りている三郎には、僕の内側にある感情に気付いたのかもしれない。三郎と意味のわからない会話をしていたもう片方――名前――はと言うと、僕の姿を認めたと同時に三郎の背中へと隠れてしまった。…意味がわからない。ぴくりと僕の眉が動いたのを見て、三郎が慌てたように口を開いた。

「雷蔵、誤解だ!こ、これはその…、」
「何が誤解なの?僕の認識とどこか違うところがあるの?…それは知らなかったな。どの辺が誤解なのかちゃんと説明してくれるよね、三郎?」
「っ、ごめんなさい雷蔵様ぁぁあ!雷蔵様を不愉快にさせたようでごめんなさいぃぃいいぃ!」

笑顔で問い掛ければ三郎が光の速さで土下座を繰り出した。全く。ため息を吐きたくなった僕の視界に、名前の姿が映る。三郎の背中に隠れていたはずが、急に土下座なんかをするもんだから名前の姿が丸見えになっていた。きょとんとした名前と目が合って数秒後、みるみる真っ赤になっていく。…真っ赤、そう思うのが先か名前が三郎の背中に抱きついたのが先か。眉間に刻まれた皺は深くなる一方。

「あ、あの、でも私達の気持ちはその、本物で。決して雷蔵のことをバカにした訳でもからかうつもりで言った訳でもなくて…」
「へぇ、そうなんだ」
「そうなんだ!だ、だから…」

ちらちらとこちらを伺う三郎。このまま僕が許してくれるだろうかと様子を伺っているのが丸わかりだった。そして、三郎の背中から僕のことをちらりと伺う名前。その様子はまるで親の後ろに隠れる子供のようで、彼氏の後ろに隠れる彼女と庇う彼氏のようで…。

ぷっつん。

僕の中でどこか軽い音がした。

「からかった訳でもバカにした訳でもないならもう一度、僕の目を見て言えるはずだよね?」
「え!?」
「言えるよね、名前?」

三郎の視線が自然と後ろにいる名前へと向く。突然名前を呼ばれた名前はきょとんとした後、ワンテンポ遅れて頭をぶんぶんと振り出す。それが否定を示していることぐらいわかっていたけど、僕は名前との距離を一歩、また一歩と縮めていく。どんだけ頭を左右に振っても近付いてくることをやめない僕に、名前は呆然としたまま僕を見上げる。細い顎をそっと指で包んで軽く上へと向ける。名前の瞳越しに、僕の姿が見える。

「僕が…、何だって?」
「ら…らいぞ…」
「ん?何?」

まるで怯えるように小さく震える名前に、安心させるように優しく微笑み掛ける。頬だけでは飽き足らず、顔中、仕舞いには首や耳まで真っ赤にさせた名前の喉仏が上下した。

「は、はなし…て、」
「どうして?三郎の話だと、さっきの会話再現できるはずだろう?」
「………、してむり…」
「え?聞こえない」
「ど、きどきしすぎて…死にそうだから…はなして…っ」

羞恥心の限界なのか涙の溜まった瞳が僕を見つめる。顎を掴んでいるその指先からも熱が伝わってきそうだった。

「死ぬ最期の瞬間に僕の顔が見れるなら満足なんだろう?よかったじゃないか」

そう告げた僕はさぞや意地の悪い顔をしていたのだろう。頬が緩み口元が弧を描くのがわかっていて抑えることができない。
そんな僕の満面の笑みを真正面から受けた名前はぎゅっと目を瞑った後、そのまま後ろへと倒れてしまった。え、と一瞬ついていけなくなった僕とは違い、三郎はすぐさま名前に駆け寄った。

「大丈夫か名前!」
「雷蔵の肌きれい指細いよマジであれ男の指なの信じられないってか鎖骨、鎖骨をあんな距離で拝んでしまった溢れ出る色気ヤバイ正面からの笑顔も頂いてしまった…どうしよう死ぬマジで死ぬときめきすぎて死ぬ体中の血という血が鼻から溢れ出しそうになったよかった雷蔵に掛けたりしなくて俺の鼻の血管が強くてよかった…」
「名前、死ぬなー!そしてちょっと羨ましいぞー!」

ぼそぼそと呟き続ける名前の言葉の内容にも、名前に駆け寄り羨ましい羨ましい連呼する三郎にも呆れることしかできない。
もうこんな変態共に関わってなんかいられない。ため息を吐いて僕は早々にその場を後にした。




「雷蔵、あれ、わざとなんだろう?」
「何のこと?」
「…さっきのこと、」
「ごめん、ちょっと意味がわからないな」

笑顔でそう言うと八左は言葉を重ねることを止めた。八左のそういう素直なところ、好きだよ。笑顔をもう一度向けてから八左を置いて前へと進む。

あの二人がうざかったのは本当。
僕の居ないところでどれだけ愛の言葉を囁かれたって、うざい以外の何物でもないと思わない?それが、僕のことが好きすぎて目が合っただけで真っ赤になるような恥ずかしがりやだからだろうと。
それにそもそも、僕のことを好きだなんだと言いながら、僕と同じ顔の男とあんなにくっついて話すのはおかしいだろう?仕舞いには抱きつくだなんてありえない。

悪い子にはお仕置き。
それって常識だよね?



120815
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