貴女は
なんて我侭なのだろう。

Dendrobium



僕は導かれるままソファに座った。
貴女も隣へ腰掛ける。
「こんなに広い部屋は要らないのにね。」
貴女はポツリと呟いた。
その声は部屋全体へ分散して消えていく。
「そう、ですね。」
広い部屋の真ん中に。
僕と貴女の二人きり。
貴女が望めば僕はこの命すら簡単に差し出せる、そんな気がする。
ノイトラ様ではなく、貴女に。
「ねぇ。」
「はい。」
貴女は僕の肩に頭を乗せた。
「どうしてテスラは私を呼ばないの?」
「呼ぶ?」
「いつも貴女ってしか呼ばないでしょう?」
私にも名前があるのよ、と貴女は薄く笑う。
「知っていますよ。名前は。」
「じゃあ、呼んでよ。」
貴女の声が耳を擽る。
「名。」
「もう一回。」
「名。」
再び名を呼べば貴女は僕の頬にキスを落とす。
「テスラの声、好きよ。」
貴女は僕の声が好きだと云う。
けれど、僕を好きだとは云わない。
貴女から愛されているわけではないのだ、僕は。
「そろそろ戻らなければ。」
ソファから立ち上がろうとした僕の服の裾を掴んだ。
「もう少し、此処に居て頂戴?」
強請るように上目遣いで僕を見る。
その瞳は僕をNOと云わせない。
「構いませんが。」
僕は再びソファへ腰を降ろした。
貴女は僕に寄りかかる。
ふわりと貴女の香りが鼻腔を擽った。
「この部屋で独りは淋しすぎるわ。」
「そうですか。」
「私を独りにしないで。」
今にも泣き出してしまいそうな、声だった。
「貴女は独りじゃない。」
「そうかしら?」
「ええ。」
貴女は小さく笑った。
「そうね。テスラが居てくれるものね。」
貴女はそう云った。
まるで僕が貴女の物であるかのように。
「ええ。」
貴女が僕を愛することは無いのだろう。
貴女は孤独でなければいいのだ。
隣に居るのは誰でもいいのだ。
僕でも、僕以外でも。
誰かが居ればそれでいいのだ。
これは貴女の都合のいい自己満足だ。
けれど僕はそれを貴女らしくていいと思った。
そして僕は彼女の都合のいい自己満足に付き合うのだ。
きっとこれは僕らしくていい。
そう思った。



アトガキという名のいいわけ

タイトルのDendrobium(デンドロビウム)は花の名前。
花言葉は『我侭な美人』
花言葉に惹かれて書きました。





Back