恋をした。 恋、と言っていいのか怪しい恋。 ただ、気が付くと彼を探しているし、店を覗けば彼が連想できるものが一番に目につく。 これは恋なのだろうか。 恋と呼んでいいのだろうか。 彼の心には愛する人がいるらしい。 この世にはもういないそうだけれど。 亡くなった人と張り合うなんて到底無理な話だ。 だってその人は彼に愛されたまま逝ったのだ。 愛を持ったまま。 私は振り向いてさえもらえない。 初めから結果のわかっている恋は恋なのだろうか。 私は読みかけの本を閉じた。 現世に行ったとき、ふらりと入った古本屋で見つけて買った本だ。 今の自分と主人公がどうにも重なる。 「読書か、珍しいな。」 ふっと息を吐き出したのと同時に声がかかった。 「あっ、えっと現世で面白そうな書物を見つけましたので。」 本当は全然面白くない。 ただ主人公の恋路が気になるだけ。 面白くなんてない。 「そうか。」 彼はほんの一言それだけを残して去って行った。 もし、私がもう少しひたむきで健気だったら。 もし、私がもう少し美人だったら。 もし、私が… なぜ、こんなにも苦しいのだろう。 なぜ、それでも好きなのだろう。 ほんの二言の会話がこんなにも嬉しいのはなぜだろう。 こんな気持ちをこの本の主人公も抱えていたのだろうか。 (あの人はこんなにも、遠い) 本の一番初めの一文を心の中で復唱した。 凛とした、彼の背中。 私はその背が廊下の角へ消えていくのを見ていた。 アトガキという名のいいわけ 久々にリハビリがてら書いてみました。 すいません。 いつも亀更新ですいません。 Back |