秋晴れが心地よくて非番の彼が私を散歩に誘ってくれた。 珍しく白哉さんから手を繋ごうと言ってくれたので繋いだのはいいものの私は緊張してしまった。 「名寒くはないか?」 「大丈夫…です」 あまり顔色が良くないが、と彼は私を覗き込むように顔を近づける。 「なっ」 仰け反った勢いでひっくり返りそうになった私を抱き起して悪戯めいた笑みを浮かべる。 愛らしいな、なんて言われてしまえばもう顔は羞恥心で真っ赤。 浮ついた心臓は制御不能に陥っている。 そんな私の手を引いて彼はまた歩き出してしまう。 「先日、恋次が新しく出来た甘味屋のあんみつがうまいと言っていてな。」 「白哉さん甘いものは苦手なんじゃ…」 「好んで食さぬだけだ。」 嫌いではない、とぽつりと呟く。 「お煎餅にしませんか?」 近くに唐辛子煎餅がおいしいお店があるんです、と私は白哉さんを見上げた。 「うむ…ではそちらに行くか。」 少し考え込んでから頷いた彼の手を今度は私が引いて歩き出す。 店先で焼かれている煎餅の香ばしい香りがしてきた。 「白哉さんは何にします?」 「唐辛子煎餅を。」 愛想のいい店主に注文をすると焼きたての煎餅を手渡される。 「食べてみてください。」 白哉さんは焼きたての煎餅を初めて見たのかじっと見つめて固まったまま。 私の声で緩慢な動きで口に運ぶ。 「…うまい」 天下の朽木白哉が煎餅を齧る姿などなかなかレアだと思う。 「私の海苔巻き煎餅も食べてみますか?」 おいしいですよ、と差し出せば彼は私の煎餅に齧りついた。 もぐもぐと咀嚼してからまたうまい、と一言。 そして無言で再び唐辛子煎餅を食べ始める。 想像以上に白哉さんが愛らしくてつい笑ってしまう。 「どうした?」 「いえ、別に」 不思議そうな顔をする白哉さんの手元にあるのが煎餅。 あまりにもシュールでまた笑ってしまう。 「どうしたのだ、全く」 困ったように彼は笑う。 「何でもないですってー」 どうやら唐辛子煎餅がお気に召したようで白哉さんは大量に買い込んだ。 唐辛子煎餅が沢山入った紙袋を片手に持って私たちは帰路についた。 「白哉さん、耳貸してください。」 「ん。」 私の背に合わせて屈んだ白哉さんの耳に唇を寄せる。 (好きです、白哉さんが。) 「…」 姿勢を戻した白哉さんはふい、とそっぽを向いた。 頬が赤い気がする。 いつもの仕返しのつもりだったのだけれど、想像以上に効いたようだ。 「屋敷に戻るぞ。」 白哉さんは私の手を引いて歩き出した。 アトガキという名のいいわけ 久々に書いたらぁぁぁぁぁ 煎餅を齧るシュールな白哉さんが見たかった。 Back |