気が付くと私は彼を探している。
何となく習慣みたいなものだったからなのかもしれない。

姓と呼ばれ仕事の話をされる。
ちらりと彼の顔を見てもその表情は崩れない。
少し前までは名前で呼んでくれていたのに、とか少しの変化が気になってしまう。
元に戻っただけなのに。
近づいてしまったから、その温もりを知ってしまったから、途轍もなく淋しいのだ。
お互い多忙で口約束は当たり前で。
それでもよかったのだと気付いたのは離れてからで。
彼の仕草や匂い、全てをまだ覚えている。
忘れられないと言ってもいい。
別の道を行くと決めたのに。
突き放したのは私なのに。
何故か傷ついている。
まだ、彼を想ってしまう。

あの日告げた別れも口約束みたいに無かった事になってしまえ、と心の中で願ったりもする。
嗚呼、貴方の傍にもう一度居られたらなんて。
きっと離れたこの道が再び一つになることは無い。
もう前に進まなくちゃ。

「…以上だ。」
「了解しました。」
私は一礼して執務室を出た。
暖かな夕焼けが窓から廊下へ入っている。
幸せなだったあの頃みたいだ、と思い私は早急に立ち去った。

けれど、今はもう少し貴方のことばかり考えていたいのです。



アトガキという名のいいわけ

シリアスが末路を失ってしまいました。



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