書類を書いていると、首に腕を回され背中が重くなった。
顔を上げると同僚達が目を見開いて固まっている。
「何か用事でも?」
白哉、と背中に張り付いた恋人の名を呼んだ。
ふわりと鼻腔を擽る香の匂いも温もりも間違うはずの無いたった一人の男のもの。
「名の顔が見たくなった。」
いつもの彼からは想像できないその言葉に思わず笑いが零れた。
「私の顔?何時見ても一緒よ。」
思い返せば暫く会っていなかったかもしれない、と思う。
「愛しい者に会いたくなるのは仕方の無いことであろう?」
何かに責任転嫁するように悩ましげな声で言う白哉。
淋しかったのだろうか。
「そろそろ離れて頂戴。みんなが驚いてる。」
区切りのいいところで筆を置いて白哉を押しのけ立ち上がる。
「どこへ行くのだ?」
「お茶入れてくる。待ってて。」
何も云わずに出て行けば何処までもついてきそうだ。
湯飲みを二つ手に席へ戻れば白哉がちゃっかり鎮座している。
どうぞ、と机に湯飲みを置いて空席から椅子を拝借した。
「ね、仕事は?」
「今日の分は済ませた。」
さすがに職務放棄はしなかったようだ。
「私、まだかかるわよ。」
夕飯でも誘いに来たのだろう、と思い残りの書類を白哉の目前へ掲げた。
「待つ。」
「どこで?」
「無論、ここだ。」
当然だ、とでも云わんばかりの白哉に名は溜息を漏らす。
同僚の視線が痛い。
仕方なくもの凄い速さで書類を書き終えた。
ほっと一息ついて隣の恋人を見れば頭が揺れている。
「白哉?」
呼んでも反応しないので頬を指先で突っついた。
微かに開いた瞼から桔梗色の瞳が覗く。
「ん。」
何度か瞬きを繰り返し鋭さを取り戻した瞳が此方を向く。
「終わったよ?」
「そうか。」
きっと疲れが溜まっているのだろうと察しがつく。
それでも会いにいてくれた恋人の優しさが嬉しいと同時に無理をさせてしまっている気がして申し訳なくもなる。
寝起きの緩慢とした動きで立ち上がった白哉に手を引かれて隊舎を出た。


小料理屋で夕飯を済まし店を出ると夜空にぽっかり満月が浮かんでいる。
「今日は泊まっていけ。」
「はあい」
夏を攫った秋風が肌に刺さる。
酒で火照った体には心地の良い風だ。
屋敷に着くと二人で風呂に浸かり同じ布団に入った。
「久しぶりな気がする、一緒に寝るの。」
「そうだな。」
もっと近くに来い、と名の体を白哉の腕が抱き寄せる。
「名も此処に住めばいいのだ。」
「え?同居?」
離れている時間が惜しい、と白哉は甘えた声で囁く。
「仕方ないなあ」
決まりだな、と柔らかく微笑んだ白哉に名も微笑んだ。

まどろみ



アトガキという名のいいわけ

本当は白哉さんって甘えん坊さんだと思うんです。


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