淡い恋心とどちらが苦いのでしょうね。

ビターチョコ

本日、バレンタイン。
現世での風習が此方でも行われるようになったのはやはり若い女性死神の感覚が鋭い所為か否か。
男性死神の中でも取り分け人気の高い者の机や自室の前にはチョコレートなどが入った綺麗にラッピングされた包みが山積みに。

「で、本命には渡したの?」
昼食を共にしている友人の言葉に思わずドキッとする。
「ま、まだ。」
「早く渡してきなさいよ?」
「いや、ほら…やっぱ迷惑かなって。」
名の言葉に友人は溜息を吐く。
「まだ分かんないでしょ。」
「だって朽木隊長甘いもの苦手だし。」
友人の溜息につられ深く息を吐き出したと同時に声を掛けられた。
「私がどうかしたか?」
「「隊長!!」」
急な本人の登場に心臓が跳ね上がりそうだ。
「何やら私の名が聞こえた気がしたのだが・・・」
「何でもありませんっ」
名の言葉に彼はそうか、と頷き何処かへ行ってしまった。
折角のチャンスを無駄にした、と直後に後悔したのだが。

書類を足早に終わらせ、世話になっている隊長格や副隊長格、友人にチョコを配り終えれば夕時であった。
定時はとっくに超えている。
「結局渡せなかったなぁ」
人気の無くなった執務室で嘆くように呟いた。
窓の外に視線を投げれば夕日が地平線に消えかけている。
机の上にはチョコが一つ。
捨てるのはもったいない気がして包装を開けた。
自身が心を込めて作り箱に並べたチョコが綺麗に並んでいる。
味は何度も確かめた。
自信作だった。
その中でも一番出来の良い物を選んだ。
一つ、口へ運ぶ。
苦味の中にほんのり甘さがほどける。
視界がじんわりと滲んだ。
さらにチョコを口へ運べば静かに涙が頬を伝う。
想いを伝えられなかった所為か。
チョコを渡せなかった所為か。
泣いている理由は自分でも検討が付かなかった。
最後の一つを口に放り込み、外を見た。
視界が揺れる。
黒い、影。
ふわりと大好きな香りがして、そっと唇に何かが触れる。
唇が離れた時には口内にチョコは残っていなかった。
「朽木隊長?」
チョコを奪った本人が、目の前に居る。
「『ちょこれーと』と云うものは案外苦いのだな。」
甘いものだと聞いていたのだが、と小首をかしげる姿に名は小さく微笑んだ。
「甘いのも苦いのもあるんですよ。」
「ほう、そうか。」
「はい。」
涙はいつの間にか乾いていた。
「京楽や浮竹、藍染までもが其方からちょこれーとを貰ったと自慢に来たのだが。」
私にはくれぬつもりだったのか?、と彼が笑う。
「朽木隊長は甘い物がお好きではないと聞いたので…」
先の言葉を濁せば、彼は更に穏やかな表情を浮かべる。
「好いておる者からの贈り物ならば何でも有り難く受け取るのだがな。」
「それはどう云う・・・」
「其方が好きだ。私と添い遂げて欲しい。」
真っ直ぐな言葉だった。
「はい。」
返事はそれで十分だった。
「今日は屋敷に来るが良い。」
「今からですか?ご迷惑では・・・」
「構わぬ。早く屋敷に慣れてもらわねばな。」
白哉は名の手を引いて隊舎を出た。



アトガキという名のいいわけ

バレンタインネタ。
全盛期に書き放置していた物を手直し致しました。







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