3周年フリーリクエスト
To.未来さま





「幸村くんってかっこいいよねー」

「彼女とかいるのかなぁ?」

「いたって好きー!」



キャー、なんて言う女子軍団の横を素通り。
最近良く耳にする名前に、ちょっとドキッとする。
平々凡々な私と彼とでは天と地ほど差があるのだから、きっとこの先かかわりはないんだろうけれど。



『(元気かなぁ、せーくん)』



呼ぶことのなくなった幼馴染の名前。
心の中で口にしてみて、なんだかかゆくなる。



『(中学生にもなって、せーくんはないよね)』



小学6年生までは普通に呼んでいたはずなのに。
一緒に登校したり、遊んだりしたはずなのに、今では会話すらない。
別に仲が悪くなったわけではないけれど、ごくごく自然とそうなった気がする。
やっぱり男と女なんてそんなもんなのかな。



『(今じゃ幸村くんは手の届かない百合の花みたいなもんだし)』



百合の花、なんて女子に使う例えかもしれないけど、幸村くんにはピッタリな気がする。
最近じゃ遠目でしか見ないけれど、柔らかい笑みにキリッとした表情はまさに百合の花だ。



「っ!」

『いっ!』



そんなことを考えながら廊下を歩いていれば、右肩に衝撃。
ボーっとしていたせいか、人とぶつかってしまった。



『すみません、大丈夫ですか?』

「ごめんね、大丈夫?」



顔を上げて数秒。
ぶつかった人の顔を見て石のように固まってしまった。



「あれ、百音?」

『ゆ、きむら、くん』



相手も少し驚いたような表情を見せて直ぐ、何もなかったように笑顔。
だけどなんだかその笑顔が嘘くさい気がして、思わず下を向く。
せーくんはもっと心のそこから笑ってた気がするのに。



「久しぶりだね」

『う、うん』

「いつ振りかな?小学校の卒業式ぶり?」

『そ、だね』

「相変わらず小さいんだね、ちっとも変わらないや」



会話が弾まない。
もちろん私の返答が返答だからなのだけれど。
にしたって、ここは誰しもが通る廊下なわけで、こんなところ他人に見られたらどうなるか。
人気者の幸村くんと冴えない私が喋ってるところを見られただけで、次の日にはスクープ沙汰になってるだろう。



『あ、っと・・・私、急ぐから。ぶつかってごめんね』



そう言って幸村くんの横をスルリと抜けた。
いや、抜けようとした。



『あ、の・・・』

「百音、何で避けるの?」



私の右腕をガッチリと掴むのは勿論一人しか居なくて、当然の如く幸村くんなわけで。
どうしていいかわからない私は困惑気味に眉間に皺を寄せる。



「俺のこと、嫌いになったの?」

『え、いや・・・』

「昔は一緒に登校したし、遊んだりしたじゃない」

『幸村、くん』

「せーくん、って呼んでただろ?」



益々混乱。
一体、幸村くんは何がしたいんだろう。
避けるとか、嫌いになったとか、登校したとか遊んだとか。
そんなの私だって聞きたいのに。



「答えて、百音」

『幸村くんだって、私のこと、避けたじゃん』

「え?」

『学校だって先に行っちゃうし、遊びだって誘ってくれなくなったし』

「それは、」



私だけが悪いみたいな幸村くんの言い方に頭にきた。
だからズバズバと反論して、そんな私に今度は幸村くんが混乱気味。



『さっきだって嘘の笑顔で。そんなのせーくんらしくないよ!』



言ってしまったその言葉。
私の言葉に幸村くんの表情が固まるのが分かる。



「俺、笑えてなかった?」

『え、う、うん』

「嘘の笑顔だった?」

『・・・うん』



考え込むような幸村くん。
何なんだと一歩下がる私に、幸村くんはに顔を上げてにこやかに笑った。
今度は、幸村くんの笑顔で。



「俺、中学入って暫くして、ずっと今みたいに笑ってた」

『・・・うん?』

「昔みたいに笑えなくて、何やっても楽しくなくて」

『うん?』

「それってさ、百音がいなかったからなんだ」

『うん。・・・・・んん!?』

「そっか、やっとわかった。そうだったんだ」



なんだか一人で納得している幸村くん。
ついていけない私をよそに、幸村くんはどんどんと話続ける。



「さっき、百音に幸村くん、なんて呼ばれて心が痛くなった。でも、せーくんって呼ばれた時分かったんだ」

『・・・・私、せーくんって呼んだ?』

「呼んでたよ、さっき」



嬉しそうに笑う幸村くん。
ちなみに、今度もまた嘘の笑顔じゃない。



「俺、百音が好きみたい」



コンビニでも行ってくるね、みたいなノリで大胆発言。
ぽっかり口を開けた私はまた一歩後ずさった。
だけど右手は掴まれたままで、尚且つ近づく距離。
にこやかに笑う百合の花。
かく言う私はその辺にひょっこり咲いたタンポポ、いや雑草。
世間で言う幼馴染な関係だった私と幸村くんは、今じゃ天と地のような存在だった・・・はず。
そんな彼が、まさか、まさか。



「明日から迎えに行くから、昔みたいに一緒に学校へ行こうね」



昔について色々と聞きたいことはあるけれど、でもそれよりも。
今日から始まりそうな"ナニカ"を知るのがすごく怖い。
と言っても、幸村くんからは逃げられないような、逃げたくないような。



とりあえず、明日迎えにきてくれたら、おはようせーくんって呼んでみようかな。







(私が知っていたせーくんは毒よりも甘い蜜だった・・・はず。)






20090120
祝3周年フリーリクエスト
未来さま/幼馴染で平凡な子
(まとまりきらず長くなってしまったあげく、グダグダしてしまった><)

 
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