廊下でたびたびすれ違う、名前も知らない女子生徒。
肩下くらいの黒髪をサラサラと風に遊ばせている彼女の姿は、まるで別世界のよう。
「侑士なに見てんだ?」
「え」
「ん?一瀬じゃん」
「がっくん知ってるん?」
俺の視線の先に気付いたがっくんが、あっと声を上げる。
がっくんが名前を知っていることに驚き尋ねれば思わぬ答えが返ってきた。
「だって有名じゃん」
「有名?」
「侑士知んねーの?一瀬って氷帝で三本指に入るくらい人気なんだぜ?」
「そうなん!?」
「うわっでっけえ声出すなよビビッただろっ!」
両手で耳を押さえるがっくんを尻目に、視線は再び彼女を見る。
廊下の窓から外を眺める彼女の瞳には一体なにが映っているんやろうか。
その瞳に映るものが羨ましい。
俺には見えぬナニかに嫉妬するやなんてアホらしい話やけど、そう思わずには居られない。
「でもさ、わかるよなー」
「なにがや」
「一瀬が美人って言われるの」
「・・・・・そうやね」
感心したように彼女を見るがっくんに、当たり障りのない返事。
聞く人が聞けば空っぽだったであろうその返事は、騒がしい廊下に紛れてじんわり消える。
開け放たれた窓からふわりと風が吹き、彼女の黒髪が宙を舞う。
そっと、彼女の細い指が黒髪を掬い、ゆるやかな動作で耳もとへとかける。
がっくんが隣で何か喋りかけてきたけれど、俺は時間が止まったかのように微動だにせず、彼女の横顔を見つめていたのだった。
君はまるで花のよう
(どうやらその甘い蜜に誘われてしまったみたいや)
20090511