忍足オンリー企画
「フェイス」提出作品気になる人が居る。
好きかどうかは、まだわからないけれど、とりあえず気にはなる。
いつだったか、グラウンドを駆ける忍足くんを見て、なんて彼は風に似ているんだろうと思った。
(あ、忍足くんだ)
移動教室のため廊下を歩いていたら、視界が捕らえたその姿。
藍色に近い忍足くんの髪が窓から入ってくる風に揺れ、ふわふわと舞っているようだった。
教室の机に肩肘を立てながら、反対側の手は顎の下に置いて、廊下側の窓から外を眺めている。
忍足くんの居る位置からでは私の姿は確認できないだろうから、思わずジッと凝視してしまって、隣を歩いていた友人に百音?と声をかけられてしまった。
何でもないよ、と急いで誤魔化す。
「百音って時々ボーっとしてるよねー」
『えーそうかなぁ?』
そうだよー、と笑う友人からチラリと目線を外してもう一度忍足くんに視線を向ける。
(反対側、向いちゃった)
既に忍足くんは反対側を向いてしまっていて、その表情を確認することは出来なかった。
それでも、吹き込む風に遊ばれている髪だけは、変わらずに綺麗な藍色をしていた。
気になる人がおる。
たぶん、好きになりそうな人。
いつだったか、グラウンドから見上げた教室の窓に一瀬が居て、どこを見とったかはわからなかったけれど、まっすぐ見つめるその瞳が綺麗やと思った。
(あれは、一瀬や)
これから移動教室なのか、教科書を抱えた一瀬とその友人が教室の出口から見えた。
なんとなく、気づかれたらあかんような気がして、横目で気づかれないように見つめる。
差し込む日差しを浴びながら歩く一瀬に視線が釘付けになってしまって、それに気づいたのか、一瀬がこちらに視線を向けた。
慌てて、だけどそれがわからないように、ゆっくりと俺は視線を逸らして窓の外を眺めながら瞬きをした。
「百音って時々ボーッとしてるよね」
『えーそうかなぁ?』
友人側に顔を向けたのをいいことに、再び視線を一瀬に移す。
残念ながらその表情を見ることは叶わないけれど、程よく高い声が耳に心地よく入ってきて、俺の中へ吸い込まれたようやった。
(あ、行ってしもた)
最後に見えた一瀬のスカートの裾は、風にふわりと揺れとった。
(私の瞳に映る君)
君の瞳とその奥と(俺の瞳に映る君)
END_201005021