A HAPPY NEW YEAR
"三日月" 続編近所にある、小さめの神社前。
夜の海にぷかりと浮かんだ満月と、口から零れる白い息。
両手を擦り合わせて気休め程度の暖を取り、歌を口ずさみながら待ち人を思う。
いつかも口ずさんだこの歌は、相変わらずタイトルが思い出せないけれど、メロディーラインが優しくてとても気に入っている。
『若』
「悪い、待ったか」
『ううん、私も今来た所』
片手を振って待ち人の名前を呼べば、足早に駆け寄ってきてくれた。
去年同じクラスだった若とは、丁度1年前の今日、この神社で偶然出会った。
それからお互い話す機会も増えて、1年後の今日、こうして一緒に参拝に向かっている。
『なんだか、1年ってあっという間だったよね』
「そうだな」
『若は部活、いつからだっけ?』
「3日の午後からだ」
『熱心だよね、テニス部。今年ももちろん狙うんでしょ、全国!』
あぁ、と小さく応える若は、やんわりと笑っていた。
まるで暖かな月の光のようで、私も釣られて笑みをひとつ。
ほうっと白い息が夜の海に飛び出し、まるで融けるように消えていく。
「百音」
『うん?』
「全国がどんなだか、知らないだろ」
『そりゃあね、そういうの無縁な帰宅部だし』
「俺が教えてやるから」
視線を空に向けながら、若はどこか恥ずかしそうに言った。
教えるって、どうやって?
なんて、意図を知らない私の発言に、若はムスッとしながらなんでもないと口を噤む。
うっすらと頬を赤くした若に、長いことかかってようやくその意味を察した。
『うん、教えて』
「もういい」
『ごめん。だめだよ、約束だもん』
「遅いんだよ、馬鹿」
冷たいようなその言葉も、実はそんなことなくて。
含まれた優しさが暖かくて、嬉しくて、愛しくて、じんわりと胸に響く。
『なら、お願い事は決まりだね』
「百音、この神社、恋愛成就だろ」
『知ってる。だからだよ』
「だから、って」
『だって、後半年以上も先だから。その間に、喧嘩とかすれ違いとかありませんようにってね』
ほらね、恋愛成就にピッタリの、立派なお願い。
「そんなの、」
『ん?』
「そんなの、この神社に願わなくても俺が叶えてやるよ」
静かな闇に響く声。
瞬く星は、去年よりか幾分多い気がする。
違うのは、繋がれた若の左手と私の右手だけれど、寄り添う温もりは変わらない。
相変わらずぷかりと浮かぶ真ん丸い月が、私と若を淡い黄色に染めた。
満月、白い息、隣に君(君の願いを叶えれるのは、君を想う僕ただ一人)
20100102
「三日月、白い息、隣に君」の続編
もう1年経ちましたがあっという間の月日でした。
今年もまた変わらずに、我が家のお話はゆっくりと進んでいきます。