(若様×男の子)








『若にーちゃん、いたいよー』



弟の万里がパタパタと足音を立てながら俺の元へやってきた。
やっていた宿題から視線を万里に向ければ、ボロボロ泣きながら自分の膝を指差す。
それに従えば、どうやら転んだらしく膝が擦りむけ赤く血が滲んでいた。



「転んだのか?」

『あのね、おにわでつまづいちゃったの』

「血が出てるな」



どれ、としゃがんで傷口を見てやれば見た目以上に傷は浅い。
消毒すれば大丈夫だ、と万里を宥めるように頭を撫でてやる。



『ふぇ、いたいよう』

「男なんだから転んだくらいで泣くな」

『だっていたいもん』

「今消毒してやるから」



ちょっと待ってろ、と言おうとしたが万里に遮られて叶わない。
むしろ、万里の言った言葉に耳を疑う。
は?ともう一度尋ねれば、万里は自分の膝を俺へと突き出し・・・



『はい、しょーどく、して?』



舐めろと言って来た。
何を言ってるんだコイツは、と見下ろせば、涙を浮かべて首を傾けた万里と目が合う。
わが弟ながらなんて似てない顔だろうかと場違いなことを思って、消毒待ちの万里をどうしようかと思案する。



「とりあえず聞くが、ソレは誰の教えだ」

『?』

「消毒だ」

『えーとね、せんせぇとママだよ?』

「母さんだけでなく先生もか」



なんでも信じる子供になんてことを教えてるんだ。
いや、確かに転んで怪我したら唾つけとけ的な教えは小さい頃俺だってされたけれども。
けれども!
それを俺がやるとなると話はまた別だ!!



『若にーちゃん、しょーどくしなくちゃばいきんはいっちゃうよぉ』

「・・・! 万里、お前自分で消毒できるだろ」



閃いた、とばかりに告げる。



『? しょーどくは、ぼくいがいのひとじゃないとだめなんだよ?』



若にーちゃん知らないのぉ?と今度は先ほどとは反対に首を傾ける万里。
その言葉に俺は痛くなった頭を押さえる。
何だその法則、と恐らく原因であろう母さんを恨めしく思う。



『若にーちゃん』



うるっと目を潤ませた万里の視線が痛くて、どうにか逃げ出せないかと考えたけれど・・・



『しょーどく、して?』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほら、足出せ」



誰か簡単に弟離れ出来る方法を教えてくれ、切実に。
(とりあえず、後で母さんにこれ以上誤情報は教えないように釘を刺そう・・・先生にも)