(若様×男の子)








「只今帰りました」



言いながらリビングに入ると、たたっと言う足音と共に姿を現す万里。
そのまま俺の足元に巻き付いてくるようにする万里に、邪魔だと告げるもえへへと楽しそうに笑うばかり。



『若にーちゃん、おかえりなさい!あのねっ!』

「その前に着替えてくるからちょっと待て」

『やだっ!だめっ!』



頬を膨らませて駄々をこねる万里。
今日はいったい何事だと、子供独特の柔らかい万里の頬を緩く抓る。
痛くない程度なので、特に嫌がる様子もない万里は、俺の顔を見上げながらただにこにこするばかり。
再度なんだと促せば、万里はちょっと待ってねと言って隣の部屋へ。
その隙に自分の部屋へ戻ろうかと足を踏み出す前に、またもたたっと万里の足音。



「一体なんだ?」

『えへへ、あのね、あのねっ』

「?」

『これ、あげる!若にーちゃんに、あげるの!』



もじもじしながら差し出すのは、小皿に乗った白い塊と赤い物体。
本気で何だろう、と仕方なしにしゃがんで小皿を受け取れば、それがショートケーキらしきものだと認識。



『ママといっしょにつくったの』



そう、にこにこ笑う万里。
そんな万里の言葉に、そうか今日は俺の誕生日だったか、と思い出す。
この年になってまさか誕生日を祝われるなんて思わなかったし、万里から何かもらうとも思わなかった。
(そうか、ジローさんや向日さんが騒いでたのは祝いの言葉だったのか・・・どうりで跡部さんから高そうな包みを貰うわけだ)



『おたんじょーび、おめでとぉ』



砂糖よりも甘いんじゃないかってくらいの、万里の笑顔と言葉。
ショートケーキらしき物体が乗った小皿を片手に、俺は無意識に万里を抱きしめたのだった。
誕生日も捨てたものではないなぁと、珍しく思いながら俺はありがとうと笑った。