「やべぇ、グリップテープ忘れた」

『あれ?これって亮くんのフリップテープ?』



同時刻、2人の声は重なった。







〜宍戸 亮の場合〜





僕、宍戸ナナシ。
正真正銘 " あ の " 氷帝学園テニス部レギュラーである宍戸亮の実弟です。
今は大事であろうグリップテープを届けるために、氷帝学園に向かっている最中。
久々に亮くんのテニスしているところも見たいしと放課後の部活動の時間に合わせて家を出た。



『亮くんってば驚くだろうなー!』



僕と亮くんは別々の学校。
ちなみに僕は神奈川の立海大付属中学校に通ってる。
亮くんのテニスしてるところを見るのは本当に久しぶりになるし、今からすっごく楽しみ。
だってね、酷いんだよ?
僕が、試合見に行っていいでしょ?って言っても、



「ダメに決まってんだろ。大人しく家にいろよ」



なんて言って見に行かせてくれないの。
亮くんのカッコイイ姿が見たいのに、なんでか絶対ダメの一言で、正直こらえていた我慢も限界です。



『でも今日見れるからいっか!』



ウキウキしながら氷帝の門を抜け、テニスコートはどこだろうとキョロキョロ。
ボールの音を頼りに歩き出したその先に見つけたちょっと大きな何か。



『この羊さんはなんだー?』



公園の大きな木の下で眠っている羊さんっぽい男の子。
氷帝の制服着てるし、きっと生徒さんなんだろうけど・・・



『こんな所で寝てていいのかな?』



そう思いながら羊さん(男の子)を見ていたら、目に付くもの発見!



『テニスラケットだぁぁぁ!!!』



亮ちゃんが持ってるから形とかは覚えてるし、バドミントンのよりも大きなソレはテニスラケットで間違いない!
なんて思って思わず叫んでしまった。
慌てて口元を手で押さえたけれど、遅かったみたいで、寝ていた羊さんがもぞもぞと動き始めてしまった。



「んーうるさいC〜」

『あらら、起こしちゃった?平気?ごめんね?』

「・・・・・・・」

『羊さん?』

「かっわE〜!!!」

『僕?可愛いかなぁ?羊さんも十分可愛いと思うけど?』

「ひつじさん?おれ?」

『だってなんだかフカフカしてるし!!』



クリクリな髪の毛とか、寝てる姿とか、起きた姿もしゃべった姿も羊さんっぽい!
そう言うと目の前の羊さんはニコッって笑ってくれた。
癒し系な羊さんにつられて僕もにこにこ。



「ねーねーなまえは?おれ、あくたがわじろー」

『羊さんの名前はじろーって言うんだぁ!僕はナナシだよ』

「ナナシってよんでもE〜?」

『うんっ!あ、そうだ。じろーはテニス部行かなくていいの?』



もう部活始まってる時間だよ?と付け加えると、ガバッと勢いよく体を起こすじろー。
こんな反応を示すってことは、遅刻なのかな?



「うわー!跡部におこられちゃうC」

『あのね、僕もテニス部に用事があるから、よかったら一緒に行かない?』

「ほんと?いっしょに行こう!ナナシは誰かの応援とか?」

『うーん、それも出来たらいいなって。テニス部の知り合いに用事があるんだ』

「ふぅーん」



じろーと2人でおしゃべりしながらコートへ向かう。
おしゃべりと言ってもじろーが僕へ質問するばかりで、僕は返答を返すだけ
それでも明るい笑顔で話しかけてくるから、全く不快ではなく楽しく過ごすことが出来た。



「テニス部なの〜?おれの知ってる人?」

『うーん、知ってると思うよ』

「え〜だれだれ〜?」

『僕の兄でね、しし、』

「てめぇ部外者だろ?何の用だアァン?」



ひぃぃぃー!!!
なんかRPGで言うとラスボスみたいな人出てきた!
(かなり失礼な発言だけどね、見てみたらわかるよ!)



「跡部ぇー、ナナシはテニス部の知り合いに用事があるんだって!」

「知り合いだと?」

『はい!』

「あーん?誰だ?」

『えっと、』

「ナナシ!!」



この聞きなれた声は、と視線を向けると、思ったとおりのその人。
嬉しくなった僕は声を荒げて名前を呼んだ。



『亮くん!!』

「「亮くん!?」」

「お前何しに来たんだよ!」



亮くん怒ってる?
え、なんで?
僕なんにもしてないよね?
でも、亮くんの顔を見れば般若みたいな形相で、思わず一歩後ろに下がってしまう。



『ぼっ僕は亮くんに、』

「何しに来たって聞いてんだろ!」



亮くんの大きな声に、僕の体がビクッと体が震えた。
なんで、なんで?
怒っている理由が分からずにグッと不安が込み上げる。



「亮ちゃーん、ナナシに怒鳴っちゃダメだC〜」

『じろーいいよ!僕・・・』

「おい、その前に宍戸!コイツ誰だ?」

「・・・・・・・・・」

『亮、くん?』



なんだかすごく怒ってる亮くん。
僕が来たからなのかな?
僕のこと嫌いだから、だからあんなに怒ってるのかなぁ。



「宍戸さん、この人泣きそうですよ?」



亮くんの後ろに立っていた背の高い男の子が心配そうに僕を見る。



「・・・ナナシ?」



亮くんに名前を呼ばれて気づいたけれど、どうやら僕は泣き出してしまったらしい。
頬を流れる涙はなかなか止まらず、次から次へと溢れ出る。



『ごめ、さい・・・僕、玄関で・・・りょ、くんの、グリップ、』

「悪ぃ、キツく言い過ぎた」



しゃくりあげながら話す僕を、そっと抱きしめてあやしてくれる亮くん。
それに安心した僕の涙は止まるどころかますます溢れる出す始末。
亮くんがジャージの袖の部分でそっと拭ってくれるので、それにまた安心して涙。



「お取り込み中悪いんだけど、ナナシが亮ちゃんのなんなのか気になるC〜」

「あ、俺も気になります」

「俺様もだ、宍戸説明しやがれ」

「・・・・・・・」

『亮くん、みんな僕のこと知らないの?』



兄弟の話とか普段しないのかな?
だから僕が亮くんの双子の弟だってことも知らないとか?



「宍戸さん?」

「・・・・・・・・・・・・・弟」

「「「は?」」」



おぉ、綺麗にハモった!



「だから、コイツ・・・ナナシは俺の実弟」

『初めまして、宍戸ナナシです!』

「「「えぇぇぇぇ!!!」」」



驚いた顔をしてるってことは、やっぱり兄弟が居るってこと知らなかったのかな?
でも亮くんに兄弟がいることってそんなに驚くことなのかな?
やっぱり双子なのに、似てないからかなぁ?



「弟、ってことは2年生ですか?」

『ううん、違うよ?』

「アーン?ってことはお前は1年生なのか?」

『僕ってそんなに幼く見えるの?』



童顔なつもりはないんだけどなぁ?
まぁ確かに身長は小さいし、ちょっと童顔だけど、亮くんと同い年には見える、はず。



「長太郎に跡部、愁は3年だぜ?」

『亮くん、僕って童顔?』

「ちょ、待て!!3年!?」

「3年ってことはさー、亮ちゃんと一緒だよ?」

『うん。僕と亮くんは双子だよ?』

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇーー!?」」」



あ、2度目のハモリだ!!
しかも今度は声のトーンが比べ物にならないくらいで、思わず耳を両手で押さえてしまった。



「でもっ、でもっ!!ナナシは何で氷帝にいないのさ!!」

『僕、立海に通ってるんだよ』

「アーン、立海だと?よし、お前明日から氷帝に転校してこい」

『へ?無理だよ、ね?亮くん』



だって僕は立海にちゃんと通ってるし?
氷帝に通う意味がないもんね?



「俺、ナナシに来て欲しい〜」

「俺様の傍に来い」

『えっと・・・・』

「俺もナナシさんに来て欲しいです!」



うわーん、どうしよう!
そう言ってもらえるのはすごく嬉しいけど、でもでも!
亮くん助けてー!!!



「ナナシ来い!!」

『え?わっ!』
 


いきなり亮くんに腕を引かれて、半ば引きずられるようにしてテニスコートを後にする。
背中のほうからじろーたちの声が聞こえたけれど、亮くんは止まる様子もなし。
ごめんなさいーと心の中で謝ることしか出来なかった。
暫く歩いてたどり着いたのは中庭?らしきところで、体力のない僕はぜーはーと息が乱れまくり。
隣で僕の腕を掴んでいる亮くんは息の乱れもなく余裕そう。



『りょ、亮く、ん・・・早っ・・・ちょ、っ!』

「あっ、わりぃ」



僕の背中に手を当てて、呼吸を促そうとしてくれるその手にすごく安心する。
数度呼吸を整えるように大きく息を吸って、また吐いてと繰り替えせば、さっきよりかは幾分楽になった。



「来るなって、言っただろ?」

『だって、忘れたか、ら・・・』

「え?」

『だから、亮く、グリ・・・っぷ、』



うぅー呼吸が乱れてるせいでなかなかうまく話せない!
ええい、こうなったら直接見てもらった方が早い、と僕はポケットから持ってきたグリップテープを取り出した。



「これ・・・」

『玄関に置いてあったよ?これ、持ってこうとしてたやつでしょ?』



ないと困ると思って、と言うと亮くんは僕の頭を撫でてくれた。
わしわしと撫でる手がとっても心地よい。



「サンキューな」



照れたように笑って御礼を言う亮くんに、僕はすごく嬉しくなった。
この笑顔が、僕は見たかったんだ。



『亮くん、もう怒ってない?』

「あれは、その、なんつーか・・・」

『?』



よくわかんないけど、なんで顔が真っ赤なんだろ?
帽子を外してガシガシと自分の頭をかいている亮くんのこの仕草は間違いなく照れているときのもの。
だけどその原因が僕には分からず。
でも、亮くんが喜んでくれたからいっか!



「まぁあれだ、とにかくありがとな!」

『うんっ!』



僕は、亮くんと双子。
それはとってもとっても自慢のできる、素敵なことなのです!
(今度はテニス部のみんなを紹介してもらって、学校での亮くんのこととか聞けたらいいな)





END_亮の場合
執筆20060417
再録20100315

テレ屋で弟溺愛の亮ちゃん
R陣にさえその存在は秘密でしたとさ*
元7頁なので長文すみません。
下記オマケ。










『亮くん』

「ん?」

『この後、テニス部見学してもいいよね?』

「ダメだ!」

『えぇーなんで?』

「ダメったらダメだ」

『イーヤー!!』

「見たってつまんねぇよ!」

『楽しいもん!』

「ナナシ運動嫌いだろ」

『するのが嫌いなだけだもん』

「だから見ても無駄だって」

『ヤダ!!』

「我が侭言うんじゃねー!!」

『だって見たい!』

「あ?」

『亮くんのカッコイイところ見たいの!』

「っ!」


その後、僕はちゃっかりベンチで見学しましたとさ!
(なぜかテニス部のみんなからの質問攻めだったけれどね)