俺には大切にしたい人がいます。
恋人とかそんなんじゃなくて、それ以上に深い繋がりのある人。






〜鳳 長太郎の場合〜





『ねーねー、ちょうたろー』

「ん・・・・・」

『起きてよーちょたぁー』

「何・・・・・・・?」

『あそぼー!』



今日は珍しく部活がない日曜日で、俺はぬくぬくと暖かい布団で眠っていた。
そんな幸せなこの時間を邪魔する声を遮るようにもぞもぞと動く。



「眠い」



たった一言だけ言い放って寝返り。
布団を肩までかけ直して、さあまた眠りにつこうと思った矢先。
かけ直した布団をガバリと剥がされ、肩口をグイグイと引っ張られてしまった。



『ちょうたろーいやだー寝ないでー!』

「ナナシ煩い・・・・・・」

『遊んでくれなきゃ泣くー!』

「おやすみ」

『うわぁーーーーーん!ぢょーだろーのぶぁぐぁーー!!』



その引っ張って俺を起こす犯人というのは、今現在も俺の洋服を引っ張って駄々を捏ねている。
泣きすぎて何を言ってるかわからないんだけれどね。
そんな犯人って言うのは、23分早く生まれた俺の双子の片割れであるナナシ。



「わかったから、遊ぶから泣くのやめてよ」

『ほ、ほん、と?』

「俺がナナシにウソついたことある?」

『ない゙ー』

「でしょ?さっ、泣くのやめて?」

『わかったー!』



語尾を伸ばす癖があって、甘えたがり。
おまけに俺より低すぎる身長のせいか、とうてい兄だとは思えない。
(いや、もちろん双子だから兄とかいらないんだろうけど)



『泣くのやめたー!遊ぶー!』

「何して遊ぶの?」

『・・・・・・・・』

「ナナシ?」

『考えてなかったー!!』



でもって天然だから放っておけないっていうか、たぶん俺ブラコンなんだよね。
父さんも母さんもナナシにベタベタね、って言うくらいだし。
まぁそれも当然といえば当然。
ナナシは氷帝に通ってないどころか、住んでるところも別。
別に仲が悪いとかじゃない。
むしろ俺達は日本中で、ううん、世界中で一番仲良しだと思う。



『でもいいやー。ちょうたろーと一緒に居る遊びに変更するー』

「?」

『ちょうたろーの隣に居るだけで楽しーからー!』



そんな風に笑顔で言ってくれるナナシ。
俺、ナナシの弟でよかった。
隣にいるのがナナシで嬉しいし、この笑顔を見るだけで疲れだって憂鬱だって嫌なことだって、全部全部どっかいってしまう。



「そっか、じゃぁゴロゴロしよっか?」

『そーするー!』



ナナシってさ、俺と一緒に産まれてきたくせに自分だけ悪いとこ持ってっちゃって、心臓に爆弾抱えて毎日過ごしてるんだ。
ちょうたろーにイタイの来なくてよかったー、なんて前に言われたセリフ。
俺よりひとまわりもふたまわりも体の小さいナナシを抱きしめて、わんわん泣いたことを今でも覚えてる。



『ちょうたろー』

「何?」

『ちょうたろーが片割れでよかったー』



一緒にゴロゴロしていると、突然言われたこの言葉。
なんてことない言葉だけれど、俺の胸にストンと落とされたこの言葉は、たぶん誰にも解けない魔法の言葉。



『なんでー?なんでちょうたろー泣くのー?』

「ごめ、」



思わず涙が頬を伝う。
だって、俺今すごく嬉しいんだ。
ナナシが言ってくれた言葉もそうだけど、だってさ、俺だって同じこと思ってるんだよ。



『泣かない泣かないー』



俺の頭に手をのせて、ゆっくりと撫でるナナシの手。
俺が落ち着くようにとそのリズムは一定で、ひどく心地良い。
小さな頃から変わらないナナシの手の温もり。



『だいじょうぶー?』

「うん。ごめんね、平気だよ」

『ちょうたろーの笑顔好きー!』



だから、ね?
もっと俺の頭を撫でて。
もっと、俺の傍で笑って、俺の傍で心臓(とき)を刻んで。



「俺もナナシの笑顔好きだよ」



俺の言葉に少し照れたように頬を染める。
俺の大切な大切な片割れ。



『ちょうたろー』



俺の名前を呼ぶ、大好きなナナシ。





END_長太郎の場合
執筆日不明
再録20100307

癒し系双子*