さて問題です。
テニス部員200人の頂点に立つ男、跡部景吾。
そんな彼に弱点はありますか?






〜跡部 景吾の場合〜





「遅い」

「いえ、あの、委員会で、」

「外周20周」

「・・・・・・・・はい」



氷帝学園の俺様何様跡部様。
いえ、生徒会長兼テニス部部長の跡部景吾。
いかなる理由であっても遅刻は遅刻、今日も容赦がありません。



「宍戸さん、今日跡部さん怖いですね」

「あぁ。近寄りたくねぇぜ」

「原因は何でしょうか?」

「あ?んなもんナナシのことに、」

「テメェら話してる暇あんだったら練習しやがれ」



宍戸とその後輩である長太郎の話を遮り激を飛ばす景吾に、宍戸はブツブツ言いながらもコートに向かう。
シューズの調整をとベンチに座ったままの長太郎が、入り口に見えたその人に挨拶をしようと口を開くも、それを見つけた景吾の声によって阻まれてしまった。



「忍足、テメェも遅刻か」

「いや、これには深い事情があってな?」

「外周30周だ」



額に青筋を浮かべる景吾に、遅れてきた忍足もそれをみていた長太郎も成す術ありません。
渋々とランニングに向かおうとした忍足。
それを見た景吾はもう既に興味がなさそうにコート内を見渡す。
と、そこへ男子テニス部に相応しくない澄んだ高めの声。



『30周は酷いんじゃないかしら?』



その声に惹かれるかのようにコート内、コート外の視線が一点に注がれた。
キレイな黒髪をサラリと払って微笑むその人は、氷帝中が知っている有名人。



『長太郎、ごきげんよう』

「こんにちはナナシさん」

『侑士もごきげんよう』

「外のザワザワ、ナナシが来たからやったんか」



傍にいた長太郎と忍足に挨拶をしたその人は、すぐに顔を別のほうへと向ける。
その向けた先にいるのは、同じ瞳の色を持ち、左右対称かのようにある泣きボクロの持ち主。



「なっナナシ!?」

『えぇ、お兄様』



ニッコリとまるで悪魔のような微笑でさえも、見るものを虜にさせる美しさ。
彼女の名前は跡部ナナシ。
そう、俺様何様跡部様である跡部景吾の双子の妹なのである。



「コートには来るんじゃねぇって言っただろうが」

『あら、私に命令するの?』

「ぐっ」

『侑士、15周でいいわ』

「え?」

『外周よ。15周』

「ほんまか、おおきにナナシ!」



ナナシにそう言われ、景吾に何か言われる前に笑顔で外周へと向かう忍足。
その様子を黙ってみている景吾は、ハッと我に返ってナナシに向き直る。
額の青筋は浮かべたままに口を開く景吾だが、ナナシはそんな景吾にはビクリともしない。



「何勝手に指示出してやがる!」

『あら、いけなかったかしら?』

「部長は俺だ。指示は俺が出す」

『景吾の発言は却下するわ』

「ナナシに却下される覚えはねぇぞ」

『そうね。でも却下は却下よ』



スパッと景吾の発言を切り捨てるナナシ。
だんだんとコート内外の空気がピリピリするも、それにすら目を向けない跡部双子。



『いい景吾?私は貴方の半身よ、双子なんだもの』

「あーん?だから何だって言うんだ」

『だったら私にも指示を出す権利があるはずでしょう?』



景吾はナナシに何も言わず(言えず?)、体を反転させると動きの止まっていた部員たちに再び激を飛ばし始める。
ナナシはと言えば、コート近くのベンチに座り、その長い足を組んで見学をする。
景吾はナナシの視線を感じながらも、黙ってその場に居させるのだった。





さてお分かりですか?
テニス部員200人の頂点に立つ男、跡部景吾。
そんな彼の弱点はたった一つ、いえ、たった一人。
彼を最もよく知る人物で、彼の双子の妹でもある、跡部ナナシその人なのです。






END_景吾の場合
執筆20051105
再録20100306

氷帝1番の最強は彼女。
"コートに来るな"は他人に見せたくないから。
相当のシスコン設定(笑)