立海大付属中学校には、魔王が居るらしい。
それも2人。







〜幸村 精市の場合〜





『ねぇ、精ちゃん、弦ちゃん』

「なんだいナナシ」

「うむ?」

『彼氏が最近チューしてくれないんだけど何でだと思う?』



大胆発言をした彼女、幸村ナナシは、神の子と崇められている幸村精市の双子の妹である。
容姿、性格ともに似ているため、女子からも男子からもいろんな意味で注目の人物だ。
そんなナナシの発言に驚いた弦一郎が、飲んでいた昆布茶を盛大に口から噴出してしまった。



「ブハッ」

『やだ、弦ちゃんきったな!』



吐き出した瞬間に机を引いて避けるナナシは、やはり神の子の妹。
恐ろしいくらいの瞬発力。
いや、まぁこの話は置いておいて。
ジャッカルがすかさず雑巾で拭き取るも、動揺を隠せない弦一郎は顔を真っ赤にして危ないくらいにキョドっている。



「ち、ちゅ、ちゅ、ち、ちゅーだと!?」

『やだ、弦ちゃん顔超真っ赤なんだけど!ウケる!』

「ち、ちゅーなどと、中学生であるナナシにはまだ早いだろう!」

「ふふっ、真田ってばチューくらいで顔真っ赤にしちゃって」

『そうだよー。しかも中学生だったらチューくらいしてるっつーの』



ナナシと精市に言われるも、納得がいかない弦一郎。
いかんせん彼は堅物。
良く言えば真面目で誠実で・・・うん、奥手って奴だ。
そんな弦一郎からしてみればチュー、キス、接吻などまだまだ早い。
恐らく結婚まで女の人は純潔を守るもの、とか思っているに違いない。



「唇と唇を重ね合わせる行為なんぞ子供がするものではない!」



顔を真っ赤にして怒り出す弦一郎。
ナナシと精市は顔を見合わせて、それからニヤリと笑った。



『弦ちゃん表現がエロい』

「え、えろ・・・っ!?」

『なんか破廉恥、スケベ、エーロー!』

「真田ってば実は官能的思考の持ち主?」

「ナナシも、幸村も、なっなっ何を言って〜〜っ!」



左右から幸村兄妹に攻撃される弦一郎。
ジャッカル含む他メンバーはもう見て見ぬフリ。
触らぬ神の子、むしろ魔王に祟りなし。



「そう言えば、ナナシ彼氏できたの?」

『え、精ちゃん今更?』

「3組の子と別れた後は知らないよ?ふふ、次は誰?どんなタイプ?」

『3組?・・・あぁ、山田?その後4組の山下くんとちょっと付き合って、今はねやっと2週間経ったんだー』

「2週間でチュー?やるねーナナシってば」

『んーでもここ2、3日そういう雰囲気になってもはぐらかされちゃうんだよね』



弦一郎、ご臨終。
ジャッカル、さりげなく両手を合わせ、何事もなかった様に再び弁当に手をつける。
精市はナナシの彼氏が気になるようで少しずつ情報収集。
兄である以上、妹の交友関係や交際関係は知っておきたいと思っているので、時たま柳からデータを頂くこともある。



「本人に聞いてみたら?」

『それが手っ取り早いよね、もうすぐ来るし聞いて見ちゃおっかな』

「来る?ここに?」

『え?うん、そろそろだと思うよ。あ、ほら来た!』



ナナシの兄である俺が居るっていうのに、ここに来る?へぇ、どんなツワモノ?
そんなことを思ってそうな顔した精市が、ナナシの指差したほうを見れば、そこには見知った赤髪。
ナナシと精市の会話を聞いていたメンバーたちも、視線を移動させてビックリ。



「ふぃー、昼休みに委員会とか超ダリー!あー腹減った」

『ブンちゃんオツカレ!はい、今日のお弁当』

「おっサンキューナナシ!」



固まる精市とメンバー。
もはや弦一郎は忘れてくれ、未だに頭が沸いている。
気づかずに腹減ったーと仕切りに繰り返す赤髪の少年、ブン太はナナシから弁当を受け取り、空いていた隣の席へと腰をおろして包みを広げ始めた。



『今日の玉子焼きは超うまく焼けたんだよ』

「マジで?」

『でもね、ウインナーはちょっと焦げちゃったんだ』

「ナナシの作ったもんなら平気だって」

『もーブンちゃんってばー』



え、何、二人の世界?ラブラブ?と、メンバーの脳裏に浮かぶ言葉たち。
その間にも精市の表情が険しくなっていくが、それに気づかないナナシとブン太。



「ナナシ、新しい彼氏って、」

『ふふっ、ブンちゃんだよ』

「・・・そう」

「あ、そっか。ナナシって幸村くんの妹だっけ?」

『そうだよー』

「そう、ブン太がナナシの・・・そうなんだ」

「丸井!お前か!」



真田復活。
一方の精市はどんどん冷気を纏いだす。



「んあ?何怒ってんだよ真田?」

「丸井にナナシ!接吻なんぞ100年早いわ!」

「げっ、なんで真田がそんなこと知ってんだよ」

『あ、ブンちゃんなんで最近チューしてくれないのー?』



怒る真田、驚くブン太、質問するナナシ、冷気倍増の精市。
それを遠い目で見守る(逃げてるだけな)メンバー。



「丸井ブン太」

『え、フルネーム?』

「ん?何だよぃ幸村くん?」

「えぇい丸井、ナナシ、聞いているのか!?」

「大事なミーティングがあるんだけど、今からいいかな?」

「いいけどデザート食ってからな!」

『今日のデザートはナナシ特製プリンだよー』




魔王が2人?
いえいえ、正確には大魔王が1人、ですよ。
(待て丸井、幸村の表情に気づけ!と、メンバーは3人+真田を見守るのであった)





END_精市の場合
執筆20100316

何これ!なお話に仕上がったような気がしなくもない。
ゆっきーはね、シスコンなんだよ!←




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