和顔愛語とは、なごやかな表情と親愛の情がこもった言葉づかい。
また、親しみやすく暖かい態度のこと。







〜日吉 若の場合〜





ここ、氷帝学園にはちょっとした名物がある。
学年は2年。
少し色素の薄い髪色の少年と、艶やかな黒髪を上品に結っている少女。



『若さん、今日久しぶりに輝夜さんとお茶をするの。宜しかったらご一緒に如何かしら?』



"若さん"と呼ばれ振り向いた少年。
彼こそ名物の1人、御存知テニス部2年の日吉若である。



「ナナシ・・・俺が行ったら迷惑になるだろう?」

『そんなことないわ。輝夜さんが、若さんも是非にと』



"ナナシ"と呼ばれた少女。
彼女もまた名物の1人、氷帝で日吉ナナシと言ったら知らないものはいない。
そう、苗字と学年からわかるように名物の彼と彼女は、双子の姉弟なのである。



「ならば時間があったら寄らせてもらう」

『そうして下さると、輝夜さんも喜びます。もちろん、私もですけれど』



どことなく似ている若とナナシ。
幼い頃から躾けられてきた日吉家。
それ故にか、誰に対しても敬語を使用するナナシ。
それは血をわけた両親、もちろん双子の弟である若に対してもであった。



「場所はいつもの茶室か?」

『えぇ。美味しい御茶菓子が入ったのよ』

「それは楽しみだな」



一見"敬語"と聞けば、どこか堅苦しい印象だがナナシは違う。
なんと言うか、彼女独特の雰囲気からだろう。
彼女の上品な言葉遣いや、暖かみのあるオーラは堅苦しさがまるでない。
この場合意味は多少なり違うだろうが、持って生まれた才能というのだろうか。



『そうだわ、私今日は差し入れに行こうかしら』



いい考えだわ、なんて続けて言ってるナナシ。
そんなナナシの言葉に、若はピクリと反応した。



「差し入れ、とはもしかしてテニス部にか?」

『もちろんですけれど?』

「テニス部へは・・・」

『御迷惑かしら?』



これには若も押し黙る。
迷惑なわけはない、むしろ嬉しすぎる。
普段無愛想に見られる若だが、実は超が付くほどシスコンだ。
我が姉ながら、美しすぎるその容姿。
狙っている者も少なくは無いと知っている。
しかもテニス部。



「(あそこは危険すぎる)」



なんて思っている若に対し、そんなことには全く気付いていないナナシ。
意外と天然な部分もあるのか、一人差し入れの中身を考えていた。



『やっぱりレモンの蜂蜜漬けが宜しいかしら?』



笑顔で言われた時にはもう断ることはできない。
若は意を決したのか、頬を上げ微笑んだ。



「ナナシは料理が上手いから、俺は何でも嬉しい」

『嬉しいわ。なら、レモンの蜂蜜漬けにしますね』

「楽しみにしている」



ここ、氷帝学園にはちょっとした名物がある。
学年は2年。
少し色素の薄い髪色の少年と、艶やかな黒髪を上品に結っている少女。



今日も互いを想い、仲睦ましく学園生活を送っている。





END_若の場合
執筆20060522
再録20100315

またもNO加筆修正っていうね(これはこれで気に入ってるのです)