出会いは、そう、鍛錬所だった。
「大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」
「うん、よろしくね」
目の前にいる人間は、女の子で。
ああ、これが僕の主になるのか、ちゃんと使ってくれるのだろうか。いや、それ以前にすぐに折ってしまうんじゃないかと、そんなことをぼんやりと思った。
僕がこの本丸に来た頃は、まだ7口だった。
賑やかとは程遠い面子だったのをよく覚えている。特に、あの頃主の近侍だった山姥切は面倒臭かった。それでも主はあいつをよく愛でていたよ。
「ねえ、主……」
言葉を発することもままならなくなった主。
あれから、何年経ったのだろう。僕らは歳は取らないし、死ぬこともない。けど主はただの人間で、老いがちゃんとある。
「やす、さ、だ……」
「うん。ここにいるよ」
寿命というものではないと、聞いた。本当ならもっと生きられるはずだったと。
布団からほんの少し出ていた手のひらを、きゅ、と握ってやれば、主はふんわりと口元を緩めた。そうして、か細い声で「ごめんね」とそう呟いた。
何を謝るのか。
僕はこうして、主の“最期の刀”になれていることを誇りに思うのに。
謝罪の言葉を一番最初に聞いた時の第一声は「は?」だった。何に対して謝ってるのかもわからないから当然の反応。でも次第に、本丸は静かになって。
「ちょっと主、加州清光を見なかった?」
「ああ、清光……うん、彼は、もういないよ」
残りの命が短いと知った主は、近侍の僕だけを残して、他の奴らを徐々に消していった。
(消した、と言うと語弊があるかもしれない)
優しい彼女だから、決して奴らを折ったりはしていない。恐らく、付喪神として刀に宿させないようにしたのだと思う。今はすっかりそういう考えに落ち着くことができるようになったけれど、やられた当初は荒れたよね。
自嘲気味に笑みを浮かべながら、横になる主の頬をするりと撫でた。
「僕が、最期までついてるから」
「……」
「ははっ、そんな悲しそうに眉間にしわ寄せないでよ。どうせ主、もう動けないだろ?」
それに、と言葉を続けようとすると、握っていた主の手に力がこもった。といっても、鈍感な奴なら気付かないくらいの力。
「主はよくやってくれたよ。僕たちを折ったこともないし、上手に扱ってくれた。過保護かってくらいすぐに手入部屋に突っ込まれたけど、愛されてる証拠だから嬉しかった」
「……っやすさだ」
「死んだらどうなるとかわかんないけど、大丈夫だよ、こんな苦しみ忘れるから」
そう、忘れる。
ただでさえ短い人生なのだ。次の人生にまで影響していたら身が持たないよね。
逆に僕らはずっと覚えているけれど。
未練がましく、ずっと、ずっと――
大粒の涙がポロリと零れる。まだ涙枯れてないんだね、言いながらその涙を指で拭ってやる。
「僕がずっと覚えてるから」
だからもし、僕が折れて、主と同じ人間として生を受けることができたなら。
その時は僕が主を見つけるから。