刀剣 | ナノ


ふと、目が覚めた。
辺りは真っ暗。烏の鳴き声すら聞こえない、まだまだ明け方にも程遠い時間帯なのだろう。どうしてこんな時間に、と息を吐きながら目元に腕を置く。
静かな夜は落ち着かない。寝て、起きたら明るい太陽が昇っていて、元気な声に囲まれていたいものだった。だから早く、もう一度深い眠りに誘ってほしい……トクン、トクンと自身の鼓動を耳にしていると、それとは違った音が聞こえてきた。

誰かが廊下を歩いている。
こんな時間に、いったい誰だろう。


「……(泥棒、ではないよね)」


思い浮かべておいてさすがにそれはないとすぐに考えを改めた。
このまま眠れそうにもない。ゆっくりと布団から出て、なるべく足音を立てないよう、部屋の出入り口へと近づいた。

ス、と静かに襖をスライドさせれば、月明かりが差し込んできた。夜って、こんなに明るいものだったかと驚いた。雲ひとつ浮かんでいない夜空に魅了されて廊下に一歩足を出せば、ミシ、と足元が軋んだ。



「――主?」

「っ、あ……」


しまった、と足を引っ込めてもすでに遅かった。
軋んだ音に気付いた人物は、いつものように私を「主」と呼ぶ。その声を耳にし顔を向ければ、私の部屋からはほんの少し離れた中庭に面する縁側に、赤の双眼を持った付喪神が月夜を見ていた(今は私を見ている)。


「主、珍しいねこんな時間に起きてるなんて」

「起きたかったわけではないよ。それより清光、あなたも」


どうして起きているの?と問いそうになったが、そういえばと思い出して口を噤んだ。そんなことをしても、問いかけた疑問は清光にはお見通しだったようだけれど。


「ついさっきだよ、手入れが終わったの」

「そう。ごめんなさい、お疲れ様」

「ごめんなさいは別に要らなかったんだけどなぁ」

「それでも、重傷を負わせてしまったのは本当でしょう」

「久しぶりだったね……あー、もしかしたらこのまま俺、折れちゃうのかもって、思ったの」


でもまぁ、汚れた俺を見せるよりはそれでも悪くないかもね。

何を、馬鹿なことを……!
思わず腕を振り上げて綺麗な白い頬を叩いてしまいそうになったけれど、彼の表情を見てしまえばそんな力も一瞬にして無くなってしまって。叩くはずだった手のひらは、ゆるゆると彼の頬に。


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「やだなぁ、冗談だよ。そんなに真に受けないでほしかったんだけど」

「そんなの無理です。怖い思いをさせてしまってごめんなさい、今後はこんな無茶しないよう、私も気をつけます」


「……ん」


震える私の手に、清光がそっと手を添えて。そのまま顔が近付いたかと思えば、コツン、と額がぶつかった。


「このまま主と一緒に、この闇に溶けたいな」

「え?」


「なんでもない。主、いつも愛してくれてありがとう」