2年エース [7/34]
「でさ、聞いてよジャッカル」
「あー」
「今朝遅刻しそうになってさ」
「つか遅刻してたじゃねえか」
「まあそうなんだけど。その時、偶然にも立海生に会ってね、自転車だったから2ケツして学校に来たんだよ。人生初の2ケツ!」
「そうかよ。よかったな」
「ねえ、そのあしらい方ひどいよ黒ハゲ」
「おまえのその呼び方の方がひどいだろ!」
志眞の対応は疲れるんだよなんて言いながら、ジャッカルは、手にクラスメート達のノートを私より半分以上多く持った。残りを私が持つ。
今日からジャッカルと週番です。
なので、提出していたノートが戻ってきたから二人で取りに来たんです。職員室まで。
それだけなのに、教室出る際に裕斗がうるさくて仕方がなかった。なにが羨ましいだよ。週番なら喜んでやらせてあげるよ。
「その少年がまたひどいんだよ」
「へえ?」
「そりゃあ、勝手に荷台に座ってレッツゴーした私も自己中だけど、女子に向かって隠すこともなく、遠回しでもなく、ストレートに重いって言いやがったんだよその少年」
「ははっ」
「普通でしょ私!これで重いってさ、私より大きい人はどう表現されるんですかーって感じだわ」
はあ、とため息をつきながら教室へと向かって歩いていれば、後ろから叫び声が。
「ジャッカル先輩が女子と歩いてるー!?」
おお、聞いたことあるぞこの声。
そう今朝。バッと振り返れば、こちらに駆け寄ってくるのは人生初2ケツを体験させてくれた少年であった。
「彼女っす‥か、……てアンタ今朝の」
「誰がこいつと付き合うかよ」
「ちょ、黒ハゲ。それはこっちのセリフだ」
「なんだ違うんスか〜」
ニヤと笑いながらジャッカルを見る少年を、私はじーっと見ていた。
ジャッカル先輩と言っていた。
そして思い出す。レギュラー2年の特徴。
ワカメみたいな髪型。
「きみ、テニス部なのかそうなのか」
「嘘だろ、本当に知らなかったのかよ!」
「年下には興味無いしね」
「そこかよ」
「てかアンタ先輩!?てっきり同い年かと思って普通にタメ語使っちまったじゃんか」
今もまだタメ語ですけど。
てか、私の人生初2ケツをあのテニス部としてしまったというのか……!
これはもう、誰にも言えまい。
年下といえども、少年はテニス部レギュラーで人気もあるだろう。女子生徒を敵に回したくはないので今朝の青春の1ページは、ひっそりと心の中にしまっておこうと思う。
「じゃあ私先に行ってるねジャッカル」
ワカメくんもさよならー、と言いながらその場を離れて行けば、後ろから怒鳴りにも似た声で自己紹介をされた。
「ワカメじゃねえ!2年エース切原赤也だ!!」
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